赤みさす果肉の絶品白桃 / 長野県飯田市・原農園を訪ねる

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天竜川が開いた伊那谷は、知る人ぞ知る、果物の名産地。健菜倶楽部スタート当初からの名人・原和俊さんを訪ね、旬真っ只中の桃を取材しました。
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 ジィー・・・。
 炎天下の中、聞こえるのはセミの声ばかり。立っているだけで汗がにじむような8月のある日、私たちは飯田市の原和俊さんのもとを訪れた。
 この日の最高気温は35度。太陽はジリジリと容赦なく肌を焦がしてくる。
「今年は人間も参ってるんだから、挑もバテとるよね。でも、このあたりは夜温が下がるので、夜寝られんちゅうことはないね」
 この年は、長い梅雨が明けたと思ったら、連日の高温で桃に障害が出ていた。その被害は全国的なものだったが、原農園は水はけもよく、夜温が下がりやすいため、味はきちんとのってくれたという。
「りんごは蜜入りっていうけど、白桃は、こう、果肉にピンクのサシが入ったのがいいんだよ」
 試食にいただいた白桃は、果皮の色が冴えていて、赤ちゃんのほっペのような産毛に覆われている。むくと果肉にスッと赤みがさし、果汁が溢れ、ものすごく甘い。そしてなんといっても香りがピカ一。やはり、原さんの桃は旨い! だれもが唸る絶品だ。


根っからの、仕事好き

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原和俊さんと、息子の俊希さん。
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伊那谷地区は、晴天率が高く、果物の名産地

 訪れた日は桃の旬真盛りな上に、梨の初出荷が重なって大忙しだった。「早朝から真剣に働いたでな。疲れた...」そう言いながらも、果樹園を案内してくれる原さんの足は軽い。
ちょっとでも、果実の異変に気づくと、あっちへ寄り、こっちへ寄りしながら、草を取ったり、実を減らしたりと、こまめに手をかけている。
 なぜ、そんなに手を動かしていられるのですか?と開くと、「果物育てるのが好きでね。好きじゃなきゃ、やってられんよね」と笑って答えてくれた。
 そう言ったあとで、「でももう引退。引退するから!」とも言う。でも、これは確か、2年前に訪れた時も言っていたハズ...。原さんはこの年、61歳。まだまだ引退には早過ぎる。「父は当分、引退なんかできませんよ。根っからの仕事好きなんですから」と息子の俊希さんも笑っていた。このやりとりは、もはや、原農園の定番だ。
 俊希さんは大学で農業を学んだ後、農園を一緒に切り盛りしている。冬には俊希さんの結婚を控えていて、原さんは「うちは後継ぎに困らない」とうれしそうだった。

気になる品種をとことん研究

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これが『あかつき』と『川中島』で、あっちが『夏っ娘』。あれは『黄ららのきわみ』。『光月』『黄貴妃』...」
 原さんの口からは、少し歩いただけでもいくつもの品種名が出てくる。果樹園には白桃系、白鳳系、黄桃系の桃が数種類ずつ植わっており、少しずつ収穫期がずれているのだ。
 原さんの桃は、完熟で収穫するため、穫りだめできない。また、収穫期が集中してしまえば、穫りきれずに捨てるものも出てくる。最高の旬を長く楽しんでもらうために、さまざまな品種をリレーするのだ。
 ただ、その品種選びには、原さんならではのこだわりがある。
「どんなに評判がよくても、自分で納得したものじゃなければ意味がない。食べて気に入った品種は自分で研究してみないと」
 だから、毎年必ず新しい品種が増えている。なお、ここ数年は、晩生の黄桃系品種を意識的に増やしているのだそうだ。
「これからは、温暖化の影響で、遅めに実る品種がおいしくなると思う。納得がいく味になったら、健菜倶楽部のみなさんにも味わっていただきたいなあ」と原さん。常に先を
見据えて仕事をしているのだ。
 数ある品種のなか、健菜で白桃を届けてもらっているのは、原さん自身の一番のお気に入りでもあるからだ。
 白桃は穫れたては固めでも、甘さは抜群。少し置けばトロリとやわらかになり、食べる人の好みで楽しめる。桃らしいふくよかな香りも魅力だ。
「私は少し固めの桃が好きでね。どの挑も旨いけれど、1つ選ぶなら白桃かな」と原さん。長年作ってきた白桃には、かなり自信があるのだ。

常に新しい技術を学び続ける

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細い若い枝には、おいしい実がなる。

「そうそう、これはいま流行りの樹形に仕立ててあるんだ」と、原さんはある樹の前で立ち止まった。
 まだ若いその樹は、よくみると、ほかの樹よりも細い枝が多い。
 桃は細い新しい枝においしい実がなるので、この仕立て方が最適なのだという。そして、この方法だと、樹が長持ちして、玉ぞろいもよくなる。
「新しい技術も、いいものはどんどん取り入れんとね」と原さんはいう。
 さらにこの年は、新たな設備や資材も導入していた。LEDを使った害虫防除装置と桃にかける袋だ。
 甘い香りの桃はとくに夜蛾に狙われやすく、吸汁されると実が傷んで出荷できなくなる。
 ふつうは農薬で防除するところだが、原さんは安全のためにそれをしたくない。そこで、LEDの光で夜蛾の活動を抑える装置を導入した。その効果は抜群だと言う。

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枝から吊るしたLED装置。
ソーラーで電力をまかなう。

 また、桃にかける新しい袋は、通気性がよく、透明なので光がよく当たり、大玉になり、糖度も上がる。
「どちらもちょっと高価なんだけれど、驚くほどいい成果がでたね。来年はもっと増やしていくつもりだよ」
 安全でおいしい桃を作りたい一心で、新しい技術を積極的に取り入れ、自分のものにする。柔軟なその姿勢が、原さんの桃を年ごとにおいしくし、私たちを驚かせてくれるのだ。
 白桃の旬は7月末から8月上旬。
どんなおいしさを届けてくれるのか、どうぞ楽しみにお待ちください。

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