季節の先陣を切る沖縄野菜。 ミニパプリカの生産者を訪ねる


沖縄の各地に、健菜の生産者がいる。
南国の気候を活かし、他所にない高品質の野菜を栽培する。
そのひとりを訪ねた。

 沖縄本島の南部、糸満市にある上地寿一さん(64歳)の農園を訪ねたのは、2月下旬。上着が必要な季節だったが、太陽が顔を出すと、光の強さが圧倒的で、南国にいることを否応なく知らされる。

 そのハウスは無人で、ラジオの音だけが響いていた。番犬が、吠えたてて、農園の主に「あやしいヤツが来た」と知らせている。
 けれど、肝心の主は現れない。
 農園への道案内をしてくれたのは、喜久山勇作さん。一帯の勉強熱心な生産者のまとめ役を手伝っている。
 そして「上地さんは携帯も持っていないし、まあ、待っていましょう」ということになった。
 農園には、ゆっくりした時間が流れていた。ハウスにしつらえられたベンチに腰を下ろして、農園を眺めるのは、気持ちがよい。
 それにしても、なんと美しい農園だろうか。

 栽培しているのは、ミニパプリカ。すでに、赤、黄、オレンジ色のかわいい実を付けている。
 どこを見ても手入れが行き届いている。畝と畝の間にはサトウキビの葉がらが敷き詰められ、雑草は見当たらない。樹々は整然とならんで、空気はからりと乾いていた。まるで庭園にでもいるようだ。
 やがて、「よく来たね」と上地さんが現れた。
 口数の少ない上地さんから、少しずつ話を聞いていく。やはり、農園の心地よさは、ただものではなかった。

作物と対話しながら

 まず、冬から低温続きであることが、話題になった。そのためにミニパプリカの生育が遅れて、背丈が低いのではないか、と喜久山さんが心配を口にした。すると、
「いや、いつもと同じ」
と上地さんから短い返事が返ってきた。あえて、そうした栽培をしているらしい。
 理由は?
「自分はそのほうがいいと思うから」と、上地さん。
 作物をゆっくりと成長させていたのだった。
 その後も、上地さんからは、「自分はそのほうがいいと思う」ということばが、しばしば登場した。

 たとえば、茎を直立に近いV字のかたちに誘因・整枝する(通常それがよいとされる)のではなく、ふところ深く、自分のやりかたでU字に誘引していること。化学肥料はつかわないと、決めていること。
 上地さんは、自分の目と耳でミニパプリカと対話しながら、栽培の工夫を重ねてきていた。

ミニパプリカのための赤い土

 やがて農園の土壌のことが話題になった。沖縄本島には、大きくは、国頭マージ、島尻マージ、ジャーガルの3種類の土壌が分布している。それぞれ強烈な個性があり、一筋縄ではいかない。
 この一帯は、強粘土質でアルカリ性、灰色をしたジャーガルで覆われているはずだ。ところが、上地さんの農園の土は赤い。
「大型トラックで30台分、マージ(赤土)を運んだ」
 上地さんはぽつりともらした。周囲にそんな農家はないから、喜久山さんが「知らなかった」と驚いた。
「ミニパプリカは、ちょっとむずかしいから」と上地さん。

 ミニパプリカは、まだ、産地も生産者も限られている。6年前から栽培を始めた上地さんは、沖縄の草分けのひとりだ。
 最初は失敗もあった。問題はどこまで樹を甘やかすのか、適度なストレスを与えるのか、だった。肥えた土や水で甘やかし過ぎれば実が着かない。養分が足らなければ、ポロポロと花を落とす。
 ミニパプリカは着花から収穫までは60日かかる。ふつうのピーマンより20日も長い。その間、樹は、疲れて勢いが衰えていく。
 品質の高いミニパプリカを育てるには、技術がいる。その技術を発揮するには、ミネラルが豊富で水はけがよく、水の管理や養分の管理が細やかにできる土壌が必要だ。
 だから、この農園の土は赤い。
 この土があるから、ミニパプリカの旨みが高まる。

 上地さんのミニパプリカは、同じ大きさのピーマンよりずしりと重い。これは、皮が肉厚で、種の部分も少ないからだ。囓ってみると、甘くて爽快。ジューシーだ。糖度は9度近くになるというから、果実に近い。彩りが美しく、カラフルなサラダにしても、加熱しても楽しめる。
 まだ、生産量はわずかだが、上地さんたち沖縄の生産者の努力のおかげで、お届けを、少しずつ増やしていけそうだ。健菜の春野菜の楽しみが増える。

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