沖縄からほがらかなゴーヤがやってくる

ゴーヤは沖縄の伝統野菜。 今でこそ、全国の家庭菜園で作られているが、やはり味が違う。 中でも沖縄産の健菜ゴーヤは別格だ。 くせになるおいしさを育てる生産者のひとりを訪ねた。

 5月、健菜倶楽部では、夏野菜のお届けが始まる。その代表格が、沖縄産のゴーヤである。健菜ゴーヤの生産地は、沖縄本島南部の平野部が中心になってきた。
 けれど、今回、本紙取材チームは、本島中部の宜野座村を訪ねた。南部とは異なる自然条件のもとで、高品質のゴーヤを栽培している山城直樹さん(57歳)に会うためだ。

ご機嫌のいいゴーヤ

 山城農園は、海岸を離れて、山道をのぼった高台にあった。その山道も、点在するサトウキビ畑も、ガジュマルの雑木林も、赤い土でおおわれている。
 それは夕陽に染まるサハラ砂漠のような赤銅色。
 青い空と草木の緑、赤土とのコントラストは強烈で、それが、この地の自然(良きにつけ悪しきにつけ)の極端さを象徴していた。
 沖縄では、真冬でも気温が14度を下まわることがない。だから、さまざまな夏野菜を、本土に先がけて栽培することができる。一方、熱帯低気圧による暴風雨は、容赦のない被害をもたらす。実際、山城農園も、台風で、すべてがだめになったことがある。けれど、山城さんはほがらかに言う。

「台風は来るのが当たり前。めげてもいられない」
 その人柄は、南国人らしい陽気さがあふれている。
「農業は自然が相手。人間の思うがままにはならないさ。でも、やれることはみんなやってみる。それがおもしろい」
 山城さんの農業のベースにあるのは、そんな、明るい姿勢だった。おもしろいことに、その農園もまたどことなく陽気である。

   春の光をたっぷり浴びたゴーヤは、ご機嫌がよさそうだ。葉は元気よく、パリリと乾いている。緑色は、濁りがなくて、樹が健康そのものであることがわかる。  根を張る赤土は、からりと乾いている。空気も乾燥していて、気持ちがいい。それを山城さんに告げると、 「水は最小限しかやっていないから」と言い、「土が土だから」と言葉を続けた。

「やってみよう!」の積み重ね

 農園一帯には、「国頭マージ」という沖縄独特の赤土が分布している。これは、野菜栽培にはやっかいな土壌である。酸性で、腐植の含有量が低く、肥料成分を保持する力が弱い。
 つまり生産性が圧倒的に悪いのだ。
 けれど、その欠点はプラスにも転ずる。作物が求める養分を適切に与えることができるので、品質本位の農業を実現するには、都合がいい。
 国頭マージは保水性が低く、雨で流出しやすいことも欠点だ。けれど、雨よけハウスを利用すると、流出被害を防げるだけでなく、作物が吸収する水分を細かく調整・管理することができ、高い栽培技術を持っている生産者にとっては、好都合なのだ。

 実際、山城さんのゴーヤの高品質は、欠点をプラスに転じる工夫から生まれていた。
 灌水のタイミング、液肥の与え方、枝の仕立て方や摘果など、自分で、「よいかもしれない」と思ったら、何でもやってきたという。
 その工夫を楽しむのが、山城さんの農業だ。
 土壌に酒粕をまいていることもそのひとつ。周辺のゴーヤが、病害虫のため次々に立ち枯れたとき、山城農園は無傷だったのは、おそらく酒粕の殺菌効果だろう。
 最近は、農園に小さな冷凍庫を持ち込んで、雄花を保存している。雌花だけが咲いて、雄花がないときに、冷凍雄花で受粉させる計画だ。結果はわからない。でも、「やってみる」と話す山城さんは、悪戯をたくらんでいる子どものように楽しげだった。

こだわりの果肉

 取材に訪れた2月下旬、農園にはすでに収穫できそうなゴーヤが生っていた。けれど、山城さんは「これは健菜には、出荷できない」と言う。固くて苦味が強いからだ。
「しかし、身質が締まっていて、むしろ味がよいのではないか」と聞くと、「ゴーヤの実は、水分を含んで、柔らかい方がいい」と譲らない。
 山城さんが、目指しているゴーヤは、「炒めておいしいゴーヤ」だ。果肉がほどよい水分を含んで柔らかく、皮も柔らかいものである。

「だから、太陽の光がぐんと強まり、樹の活動が活発になり、そして、実がぐんぐんと育つ時期のものが一番。旬は5月から6月」と、山城さんは言う。
 本紙が、皆様のお手元に届く頃、山城さんのご機嫌のよいゴーヤは、味のピークを迎える。山城さんが「一番おいしい食べ方はこれ」とすすめる「チャンプル(炒め物)」で、ぜひ、召し上がれ。

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