健菜通信:今月の特集

よく噛むことは、よく味わうこと! 嚙む力を見直す

2015年02月23日


咀嚼は脳の活性化するという。一方、嚙む能力が低下しているという指摘もある。調理学の立場から、咀嚼と食べ物について研究している柳沢幸江教授に話をうかがった。

柳沢幸江 和洋女子大学家政学群教授

【プロフィール】女子栄養大学栄養学科卒業、同大学院博士課程修了、博士(栄養学)。女子栄養大学助手などを経て現職。調理学、食事学の立場から、歯科との連携によって、咀嚼と食生活について研究。
著書に『育てようかむ力』(少年写真新聞社)、『食生活がわかる』(共著/朝日新聞社)などがある。

......現代人は「嚙まなくなった」といわれます。実際はどうなのでしょうか?

 時代ごとに比較してみると、1回の食事の咀嚼回数はだんだん減ってきました。弥生時代に比べたら六分の一、昭和初期と比べても二分の一にまで減少しています。
 食べ物をちゃんと噛めない子どもが増え、顎が小さくなっていることが問題になったのは、昭和60年頃です。当時に比べると今は、「噛むことが健康につながる」と誰でも知っており、意識が大きく変わりました。
 でも、「知ってはいるけれど」というのが現実ではないでしょうか。

......嚙まなくなった原因は、やわらかいものを好むようになったからですか?

 人間は、本来、なめらかでやわらかいものが好きです。何回も嚙むより、プリンのようにのどを流れるものが心地よい。これは、歩かずに自動車に乗りたいというのと同じです。
 注目されるのは脂質です。社会が豊かになるにつれ、脂質の摂取量が増えてきました。最近ようやく歯止めがかかったとはいえ、脂質が食事に占める割合は、60余年で、7%から約27%にまで増えています。
 脂質は、口の中で溶けてなめらかになり、高エネルギーであるために、食べ物の嵩を減らすので、咀嚼回数を低下させる。逆にいうと、噛まない人ほど、脂肪摂取量が多いのです。
 それに、味や形を均質化するために素材を小さくカットした加工食品を食べる機会が増えたことも、原因です。

葉野菜は嚙む回数を増やす

......では、自ずと噛む回数が増えるのは、どんな食事でしょうか?

 まず、素材を意識すること。噛むことを増やす食べ物は、食物繊維の多い野菜、海草、きのこなど。また、干したものは、魚介、果物、野菜など、すべて噛み応えが大きくなります。
 こうした食材は、単にかたいのではなくて、口の中で小さくして、飲み込めるようにするまでに、何回も嚙まなくてはいけません。それがいいのです。

......特にいい野菜はなんでしょうか。

 葉野菜です。サラダは嵩があり、もそもそしているから、飲み込むまでにかなり嚙みます。日本人は加熱しても、しゃっきりした食感を残す調理をしますから、咀嚼回数増にかなり貢献します。
 根菜はごぼうをのぞくと、やわらかく煮込んでしまうことが多いので、貢献度では葉野菜にかなわない。

......調理法も関係しますね。

 調理では、口でやる仕事を残しておくこと。つまり、細かくしすぎない。加熱してやわらかくしすぎない。それに汁が多いものばかりも避けましょう。
 でも、あまり細かく考えず、今の食事に、咀嚼のためのプラス1を心がけてはどうでしょうか。
 たとえば、ハムのサンドイッチ一食分(384回)をカリカリベーコンサンドにしたら咀嚼回数は2倍以上です。

注目される脳との関係

......咀嚼が身体にいいといわれるのはなぜでしょう。

 嚙むときは咀嚼筋が伸縮して下あごが動き、血管や神経が刺激されて脳の血流もよくなることが証明されています。
 マウスの実験で、咀嚼を多くすることで、記憶と関係する脳の海馬の神経細胞の数が増えるという研究などもあるのです。
 また、ある幼稚園で6か月間、通常の給食と噛み応えのある給食を食べるグルーブに分けて調査したところ、後者のほうが咬合力(ルビこうごうりょく)だけでなく、記憶テストの結果がよくなった子が多いという報告もありました。

......子供にとっては、特に大切ですね。

 赤ちゃんは乳しか飲めません。つまり嚙む力はゼロからスタートして、離乳食や幼児食を食べ、いろいろな食感、食べ応え、味の経験を積みながら身に付けていくもの。徐々に能力を伸ばして、小学生の頃に大人と同じレベルになります。
 大人になってやわらかい食べ物しか「おいしい」と感じない人もいれば、シャキシャキとした野菜や、干し芋を噛みしめて「おいしい」と思う人もいます。この違いは、それまでにどれだけ、多くの食感を味わったかによるものでしょう。それだけに味や食感にバラエティがある野菜は大切です。
 子どもの「おいしい」を広げてあげるのは、大人の責任。「おいしい」が広がっていくと、自ずと食事のバランスがよくなる。生きる力が強くなると思います、

......では大人はどうでしょうか。

 現状を維持することが大切です。
 そのためには、まず、歯のケア。自分の歯をダメにしないこと。そして、40代、50代で食べていたのと同じような食事形態を続けていくこと。まだ噛めるのに、細かくしてはいませんか。その必要はありません。

......最後に、健菜倶楽部の会員の皆様にメッセージを。

 嚙むという行為は歯と舌と唾液で、食べ物を小さくして飲み込めるようにしているだけではありません。このとき、味覚・嗅覚・触覚・聴覚を使って、食べ物を確認し、そして味わっている。わたしたちは、食べ物を知るために嚙んでいるのです。
 よく嚙むことは、よく味わうことにつながっています。おいしい野菜がお手元にあるのですから、ぜひ、嚙んで味わうことを大切になさってください。

弥生時代の食事の再現

内容:玄米飯、ハマグリの汁、鮎の塩焼き、魚の干物、長いもの煮物、くり、くるみ、のびる 1食:515キロカロリー(1日1,300キロカロリー)食事所用時間:41分、咀嚼回数:2272回

現代食の一例

内容:カレーライス、ブロッコリーのサラダ、ヨーグルト 1食:734キロカロリー、食事所用時間:17分、咀嚼回数:758回

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