潮風の地で 健康を守る野菜をつくる


佐原敏樹さんのじゃがいもは、初夏が旬。みずみずしくて香りが高いじゃがいもには、「食べる人を健康にしたい」という気持ちがこめられていた。

 新じゃがの収穫が始まったばかりという、静岡県湖西市の佐原敏樹さんの農園を取材した。最初に訪れたのは、遠州灘に程近い台地の上に拓かれた男爵の畑だ。初夏の陽射しの下、鮮やかな赤土が目にまぶしい。強い潮風が吹き付けて、じゃがいもの葉をゆらしている。

 一般のものと比べると、茎の節と節の間(節間)が短くて草丈が低い。黄化が始まった葉の色には濁りがない。健菜倶楽部生産担当者の目には、じゃがいもが健康そのものであることがよくわかるという。
 ちょうど掘り出されたばかりの男爵は、手に持つと思いの外重く、身質が緻密であることをうかがわせる。土を払うと、なめらかで美しい肌が現れた。
「皮の色が均一で美しいのは、三方原馬鈴薯の特徴です」と佐原さん。
 三方原馬鈴薯は浜松市三方原台地と湖西市白須賀台地で栽培されている、ブランド野菜。全国トップクラスの日照時間、温暖な気候、水はけのよい赤土など数々の自然条件を生かして栽培されている特産品だ。
 しかし、佐原さんとその生産者グループが栽培しているじゃがいもは、三方原ブランド水準をはるかにしのぐ品質で知られている。その栽培方法は独特で、きめ細かい施肥計画が立てられ、野菜の状態に応じた管理がされている。


人を育てるように
野菜を育てる

「わたしは作物を人間と同じように育てています」と佐原さん。
「たとえば...」と佐原さんの言葉は続いた。
「赤ちゃんにステーキを食べさせようとする人はいない。人間は、赤ちゃんから子ども、そして大人へと成長するにつれて、食べ物も変わってくる。たんぱく質は、筋肉ができる成長期になってからたくさん食べればいい」
 そして、「野菜や作物も同じです」と佐原さんは言い切るのだ。
「有機肥料を大量にまぜて土を肥えさせようとする生産者は多いけれど、そんな畑に植えられた苗は、無理矢理トンカツや焼き肉を食べさせられている赤ちゃんみたいなものです」
 大切なのは、作物の成長や健康状態に合わせて、養分を過不足なく補給することだ。小さな苗のとき、根がのびるとき、あるいは花が咲くタイミングなど、作物にとって最もよい環境は時期によってちがう。それに合わせて、佐原さんは、植え付けから収穫まで、約20段階にわけて、種類の異なる養分やミネラルを与え、きめ細かく手入れをしている。
「与え過ぎは絶対にいけない。そのときに、必要としている養分を必要としている量だけ与えます」
 もちろん農薬は最小限しか与えない。一般栽培の半分以下だ。
 こうして育った樹は健康そのものだ。そして、みずみずしく、香りの高いじゃがいもができる。

病気が治る野菜を

「多くの農家の頭にあるのは、まず収穫量のこと。つぎがおいしさかな。でもわたしは、食べたら健康になる、病気が治るぐらいのものを作らなくては......と思ってきました」
 そう考えるようになったきっかけは、自分の子どもがアトピーに苦しんだからだ。そのときに、佐原さんはこう考えた。
「アトピーは食べ物が原因なのだから、食べ物で治せるはずだ。わたしがそれを作ろう」

 それから、いろいろな勉強をしながら、農法を変えてきた。特に、大量に窒素肥料が与えられた野菜に残留する硝酸態窒素は、人の健康を害する成分であることを意識して、試行錯誤をしたという。
「人間と同じように、命あるものとしてあつかう」
 そんな栽培方法にたどり着いたのは、10年ほど前だ。今では、その栽培方法を詳細な記録にして、生産グループと共有している。その野菜の精緻な栽培理論が認められて、他の生産者たちの勉強会によばれることも多いという。
「食べ物を作る者には、人の命をあずかる責任がある。わたしはそう話しています」
 取材の最後に、遠州灘に面した広々とした農園に足を運んだ。メークインを栽培している農園に立つ佐原さんはにこにこ笑いながらこう話した。

「食べた人においしいと言ってもらえることが、いちばんうれしい。中でも子どもたちが野菜にかじりついてくれて、それで健康になってくれたら、生産者冥利につきます」
 佐原さんのじゃがいもは、おいしい。それは、わたしたちが、きっと、自分の体によいものをちゃんと感じているからだ。
 健菜倶楽部のみな様には、6月中旬からお届けの予定です。

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