収穫の季を迎えた健菜米。 稲の力を引き出す生産者たち

健菜米コシヒカリは限りなく無肥料で、農薬に頼らずに育てた健康なお米。
生産者たちは切磋琢磨しながら、米の味を高め、収穫の時を迎えました。 上越市吉川地区にある生産者たちの農園を紹介します。

「これまでにない出来。収穫の日が待ちどおしい」

 中村髙二さん

 中村髙二さんの棚田は、いつ訪れても美しい。畦の草はいつも整然と刈り込まれ、点在する果樹が四季折々に花を咲かせ、実を生らす。その景色を見ていると、永田照喜治氏が常々語っていた「貴族の農園」という言葉を思い出す。
 収穫まで約2週間というこの日は、棚田全体が薄い黄色に染まっていた。稲の葉は緑が抜けて澄んだ黄緑色になり、稲穂は先端に緑色が残る状態だ。
「穂の8割まで黄熟したら収穫です」と髙二さん。
「大切なのは収穫量を上げることより、おいしい米を作ること」という髙二さんの苗の植え方は、他の生産者と少し違う。田植えでは、苗を5列植える度に2列分の空間をあけていく。これは田んぼの中心部まで、光と風の通りをよくして、品質を高める工夫だ。収穫量が減ることを心配して、これを真似る者はいないという。じつは、奥さんの幸子さんも、最初は反対したが、実際に収穫した米を目にしてから意見を変えた。

 その隙間はすでに稲穂に隠れ、見えなくなっていた。すべて順調だ。
 今年の夏、新潟県は酷暑が続いた上、干ばつまで心配された。けれど、髙二さんの農園にとっては、日中は太陽が照り、夜は気温がぐっと下がる理想の気候となった。湧水池の水も十分に足りた。
「これまでで最高の品質になるかもしれません」
 髙二さんと幸子さん夫婦の表情には笑顔があふれていた。

「原点に立ち還り、食味を極めました」

中嶋巌さん

 永田米研究会会長・中嶋巌さんの田んぼは、例年とは少し様子が違う。もともと健菜米の稲は背丈が低いのだが、中嶋さんの稲はそれが際立っている。稲穂は短く、黄熟しても頭を垂れずに、直立気味だ。
「一穂百粒という言葉があるけれど、この穂についているのは70粒ぐらいかな」
 しかも、かなり小粒だ。いったい、どうしたのだろうか。
「食味をとことん追求してみたので...」と中嶋さん。
 じつは、「だれしもが唸るほどの米を作りたい」という思いが中嶋さんにはある。その米は十分においしいのに、「まだまだだ」ともいう。
 そのために今年は原点に還って、永田農法を徹底的に見なおした。そして経験に甘えずに、栽培法を変化させていたのだ。永田農法の基本は、厳しい環境で作物を育て、地表近くに毛細根を繁茂させることにある。中嶋さんは、それにこだわり、栽培技術を駆使した。収穫量の減少を予想した上での挑戦だ。

「土の状態を見ると、目指す方向に向かっていると思う」
 そういいながら、中嶋さんの示した田んぼの土は緑がかっていた。これははじめて永田農法で米を栽培し、その味に感動した時の状態と同じだという。
「あとは太陽と稲の生命力次第」と中嶋さんはいう。
 結果がわかるのは収穫後。途方もない米が誕生するかもしれない。


「見事といわれる稲すがた。自然の力で健康に」

中村昭一さん

 中村昭一さんの農園は小さな生き物の楽園だ。いたるところにトンボがいて、畦道を歩くと、足を踏み出す度に、バッタが次々に飛び上がる。困ったことに、イノシシの家族もいる。野ウサギも出てくる。山間の棚田は賑やかだ。
 その棚田に健菜米の生産者たちが集まる機会があった。その折、米作りのライバルである生産者たちが声を上げた。
「これは見事だなあ」
 茎の数、稲穂の充実ぶり、粒の形や澄んだ色、葉の色など、どれも素晴らしいと感心しきりだ。
「稲が健康であれば、食味は高くなる」
 そういう昭一さんは、これまでも、稲を健やかに育てることを第一に考えてきた。そのために力を注いできたことが、自然の生態系を守ることであり、土壌を微生物が活発に働く状態に保つことだ。最近は、とくに微生物に注目しており、今年は苗作りの段階で、稲の免疫力を高める共生微生物を加えた。

「効果はありました。味わい深い米が間違いなく穫れるでしょう」
 そんな昭一さんが収穫を始めるのは、10月初旬の予定。皆様に本紙を読んでいただく頃、健菜米の故郷では、生産者たちが収穫作業に追われているはずだ。
 10月から、健菜米のお届けは、馥郁たる香りを放つ新米に切り替わります。どうぞ、お楽しみに。また、まだご賞味いただいていない方も、新米を機にいかがですか。


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