健菜米づくりが始まった。上越市吉川区を訪れたのは6月2日。風はカラリとして涼しいが、太陽の光は夏。吉川の棚田はいつ訪れても美しいが、田んぼが水鏡になる時期の夕景は格別だ。水に映る夕日を前に、永田米研究会会長・山本秀一さんと中村昭一さんに話を聞いた。
「まずまずのスタートでした」と山本さん。
今冬は近年まれにみる大雪だったが、春、雪消えのスピードが早かったので、田起しや代掻きなど、稲作の準備作業が滞りなくできた。田植えも予定どおり進められたという。少雪の年は夏場の水不足が心配だが、今年は、尾神岳をおおうブナの原生林が、地下に豊かな雪解け水を蓄えてくれている。これなら田んぼに水を注いだり払ったりしながら行う水管理も、思う存分できるだろう。生産者の技の見せ所になりそうだ。
田んぼを見て歩く二人の表情は明るい。
「苗が健菜米らしい姿になり始めましたよ」と中村さん。
それはどんな姿だろうか。
田植え時の苗の葉は、2.5枚しかない。2枚の葉は、田植えから10日経った今、役目を終えて萎れ始めていたが、苗の中心からは新しい葉がツンツンと真っ直ぐに伸びている。背丈は15センチ弱と低いが、近くで見ると何とも力強い。葉は濁りのない緑色。一般栽培の葉より色が薄い。
変化は地中でも起きている。というか、土の中のドラマのほうが重要だ。育苗時から養分や水を控えて、しっかりした根を繁茂させることは永田農法の基本だが、田植え後、土に張り巡らされるのは、新しく生えてくる細く白い根だ。生産者たちが「おいしい根」と呼んでいる、微量元素を吸収する細かい根をどれほど増やせるか......。
「どうかな」と苗を1本引き抜いてみると、すでに新しい根がもしゃもしゃと現れている。今のところ、申し分ない成長ぶりだ。
永田農法歴二十年、三十年というベテラン揃いの生産者たちは、今年、どんな米づくりをするのだろうか。
「まず、永田農法の基本を徹底する」と山本さんは語る。
それは作物の健康がおいしさを生むということだ。そのために限りなく無肥料・無農薬で栽培している。食味を高めるために、できることは全てやるという姿勢を貫く。
「できることは、まだ、あるはず」と、毎年、栽培法を見直し、改良を加えてきた。それぞれの稲の成長記録を仲間で共有し、互いに切磋琢磨する。山本さんと中村さんは、りん酸成分の吸収が高くなると見込まれる方法を、今期は試行している。
「健菜米のお客様が求めるレベルは高い。それに応えつづけるには、『これでいい』と、満足してはいられません」
翌日、訪れたのは、永田米研究会の前会長・中嶋巌さんのもとだ。息子の琢郎さんに農業を任せて引退しているが、究極の米を作りたいという思いは消えていない。そのための専用の田んぼに中嶋さんはいた。
「おいしいってどういうことだろうね」と中嶋さんは自分に問いかけていた。
「これはすごいと自分で思える米ができたことは、これまでに2回しかない」と中嶋さん。その時の感動を再び体験したいという。
「どんな条件が重なって、あの米ができたのか」と考えながら、米づくりに取り組んでいた。
今年は3度目の感動が味わえるだろうか。秋に期待したい。
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