健菜通信:今月の特集

目指すのは、日本一のアスパラ農家

2019年06月01日
「農業は科学だ」が持論の生産者を訪ねた。
それが間違ってはいないことを瑞々しいアスパラが示していた。

 余市郡赤井川村は、人口は1200人たらずの小さな村だ。四方を緑の山々に囲まれている村はカルデラ盆地にある。死火山とはいえ、噴火口に住民がいる日本唯一の地だ。
 ここに、日本一のアスパラ栽培を目指している生産者がいる。
「僕は大自然の中にあるこの村が大好きなんです」と話す赤木陽介さん(39歳)だ。

アスパラを選んだ理由

 赤木さんは札幌で生まれ、小学校の頃、赤井川村に引っ越してきた。高校では再び札幌へ戻り、さらに東京で就職。そして、25歳の時に「農業を仕事にしたい」という夢を実現するために、この地に帰ってきた。
「叔父さんの手伝いをして、農業の楽しさを知った」という赤木さん。いわばゼロからのスタートだが、その時からアスパラを専門に栽培しようと決めていたという。
「じつはトマトも栽培候補でした」
 しかし、トマトはすでに名人級の生産者がいて、そのレベルに追いつくのは容易なことではない。一方、アスパラは専門家と呼べる生産者がいないし、栽培技術も確立されていない。
「ひょっとすると、僕が日本一になれるかもしれない」
 そんな思いが原動力になった。
 最初はトラクターを隣から借りて土を耕していた。初めて建てたハウスが台風で吹き飛ばされたこともある。けれど赤木さんは研究を重ねながら、着実にアスパラの品質を高めてきた。やがて、遠方の料理人などから注文が相次ぐようになり、農園の規模も広がってきた。農園では、今、15人のスタッフが働いている。


見ただけで感じる「おいしさ」を

 北海道産アスパラの大半は露地栽培だが、ここは水分管理が行き届くハウス栽培だ。畑の土は「作業しにくいがポテンシャルが高い」(赤木さん)赤土の重粘土。気候は、盆地特有の内陸型気候で、昼夜の寒暖の差が大きく、栽培に最適な自然環境に恵まれている。
 トマトを筆頭に作物は、普通、おいしさと収穫量が反比例する。多収量を目的に栽培すると味が落ちてしまうのだが、アスパラは逆だという。
「より太く、たくさん採れた方が、おいしくなります」

 アスパラは若芽を食べる野菜だ。播種から収穫できるまでには3年かかるが、その後は、十数年間、同じ株から収穫し続けることができる。タンクと呼ばれている根を、大きな株に育てて養分を蓄えさせ、健康な状態を維持することが栽培のポイントだ。
 最初の年はシャープペンシルの芯のような若芽が、2年目はえんぴつの太さになり、それが翌年はまた太くなる。おいしいアスパラを育てるには、地中にある根の状態を把握して、数年先を見すえることができる高い技術が欠かせない。

 「農業は科学だ」が持論の赤木さんは、アスパラの生理を研究し、科学的アプローチを続けてきた。
 「今は、食べる前からおいしいと感じる野菜をつくりたいと思っています」
 そのキーとなるのは香りだと赤木さんは考え、香り成分が高まる土づくりに取り組んでいる。
 赤木さんは毎日、アスパラを試食するが「まだ、満足できない」という。むしろ、「もっと上を目指すために、満足してはいけない」と自分を駆り立てているのだろう。
 さて、赤木さんは4月半ばから、アスパラの収穫が始めている。その美味がみなさんのもとに届くのは、もう間もなくだ。 


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