今、健菜米の棚田は黄金色に染まっています。収穫まで、残り2週間。米づくりもいよいよ大詰めです。
私たちは毎年、秋の棚田に集合して写真を撮影してきましたが、その写真を見ると「きれいですね」と言ってくれる人が少なくありません。じつは、それは無肥料で栽培している健菜米ならではの美しさなので、生産者としては、うれしいだけでなく、誇らしくもあるのです。
窒素肥料が多すぎる田んぼは、含有している窒素成分を消化しきれないままなので、暗い緑色が残ってしまいます。
ふつうは気づかないことかもしれませんが、私たちにとっては、濁りのない黄金色が、「無事においしいお米が実りましたよ」というシグナル。待ちに待っていた色でもあるのです。
私たちの頭の中には、「理想の稲の姿」がインプットされています。私のそれは、「小柄で細く見えるけれど、じつは筋肉隆々」といった感じでしょうか。体つきに無駄がない、コンパクトな健康体の稲です。
具体的には「生育がこの段階なら、この姿が理想」と、それぞれに基準があり、理想の姿に近づけるように調整を図っています。じつは、今年は、その調整に苦労しました。原因は予想外の長梅雨です。
『健菜通信』7月号では、私が初夏の様子を報告しましたが、ご記憶にありますか。その記事には、天候に恵まれて米づくりが幸先のよいスタートを切ったことや、空梅雨が予想されること、そして水不足に備えるつくり方をしていくと記しました。ところが、その後の展開は真逆で、長い梅雨に悩まされることになったのです。日照不足に加えて、田んぼの水を落とすことができず、天気予報をチェックしながら、やきもきする日が続きました。それに稲の生育もかなり遅れました。
梅雨が明け、夏らしい夏になったのは8月。太陽が顔を出したときは、「やっと夏が来た」とホッとしたものです。
今年の米づくりは、気候・気象との付き合い方や、生産者の観察眼が、いつにも増して試されるものでした。
昔のように気象が安定していれば、農作業も教科書通りに進めればよいけれど、最近はそうはいきません。天候の予想は外れることが多くて、おいしい米を育てようとしたら、悩み、考えることばかりです。
けれど、食べてくれる人の期待を裏切らない、「どこよりもおいしい米をつくろう」という目標があると、悩みがいも挑戦のしがいもあるもの。それは、生産者の楽しみだともいえそうです。
例年、9月は、刈り入れの体験学習にやってくる子供たちや、手伝いに来る親類や援農隊の人などで、田んぼが少し賑やかになるのですが、今年はコロナ禍の影響で、他所の人は見かけません。その代わり、近所同士で助け合って、農作業をしている姿を見かけます。私自身、お隣さんと一緒に収穫作業をする予定です。少しさみしいけれど、地域のつながりが強まっていることは、よいことです。
さて、健菜米の収穫は9月20日頃がピークになる見込みです。それまで2週間、今は生産者としてやるべきことは全て終えて、太陽や秋の風といった自然が米づくりの最後の仕上げをしてくれるのを見守っています。
10月20日からは、新米のお届けが始まります。どうか、楽しみにしていてください。
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