豊かな自然の中で育てる 安心でおいしい野菜

 京都府の北部、丹後半島の付け根にある越江さん一家の農園からは、季節感に富んだ野菜が届く。夏の万願寺唐辛子、秋の里芋、あるいは冬の聖護院大根といった京野菜もある。その農園を訪れたのは昨年の11月半ばのこと。ちょうど冬野菜の収穫が始まっていた。

秋の陽射しを受けて

「まず聖護院大根から見てもらいましょう」
 越江雅夫さん(69歳)、昭公さん(43歳)親子が案内してくれたのは、山を崩して拓かれたのびやかな畑だ。周囲の雑木の森は紅葉に彩られ、耳を澄ませば、さわさわという野菜の葉ずれの音に日本海の波音が混じる。穏やかな秋の陽射しに照らされた南向きの斜面で、野菜が銀色に光っていた。
 「美しい!」と感嘆すると「ええ、自然に囲まれていて、周囲の農薬の影響なども全くありません。安全面でも抜群の環境です」と雅夫さんは表情を緩めた。
 じつは雅夫さんが就農したのは平成6年のことだ。国のパイロット事業で広大な農地が整備されたのに、同じ集落には「引き受ける」と手を挙げる者がいない。「それは惜しい」と、雅夫さんは勤めを辞めて7ヘクタールの農地を取得し、専業農家となったという。

 当初は一般的な栽培をしていたが、ほどなく「安心安全を追求しよう」と栽培法を転換。これにもきっかけがある。
「歯医者さんに『永久歯が生えてこない子どもが増えているのは、除草剤の影響だ』と聞いたんです」
 新聞などにも掲載されたことがある研究だ。もともと農薬を多用することに疑問があった雅夫さんは、まず、除草剤の使用を止めた。それから化学肥料を有機肥料に切り替え、その肥料も動物性ではなく、籾や糠などからつくる自家製の完熟堆肥のみに転換。農薬は可能な限り減らした。最初の頃は、生い茂った雑草で一作だめにした田んぼもあったという。
 息子の昭公さんも加わってからは、「安心」と共に「おいしさ」にこだわる栽培を追求してきた。農園はエコファーマーだけでなく、有機JAS認定も取得している。
 現在は年間50品目の野菜を栽培。この日、畑を見渡しただけでも、聖護院大根、玉ねぎ、にんじん、大根、かぼちゃ、白菜といった野菜が目に飛び込んでくる。さらに......。
「これ、面白いでしょう」
 そういうと、昭公さんが赤いかぶの皮を手でむいてガブリ。サラダ向きの新品種だという。一方、雅夫さんは「食べてみて」と、これも新品種だというオクラをすすめてくれる。ふたりは、消費者に喜んでもらえる野菜を探すことにも熱心だ。

里芋はお嫁さん

 この日、ハウスでは里芋の出荷作業が進んでいた。やわらかくて粘りがあると好評の里芋は、「もとの品種は石川早生ですが......」と雅夫さん。その言葉を昭公さんが続けた。
「うちの土で20年、代々育ててきたので、独自の里芋といえるかもしれません」
 里芋は株の中心に親芋ができ、その周辺に付いた子芋を食べる。親芋は、翌年、種芋として植え付ける。その繰り返しだから、何代も続けば、農園独自の性質や味を持つようになるのも当然だろう。保管されていた親芋は根が驚くほど密生していた。おいしさを高める根だ。
 同じハウスでは、スタッフが、手作業で芋に残った土を落として選別をしていた。鮮度落ちが早まる水洗いはしない、丁寧な仕事だ。
「きれいにしてお嫁に出さなければね」と。
 こんなところにも、「おいしい野菜を消費者に」という姿勢が見える。
 さて、12月は一家の農園から次々に野菜が出荷されてくる。煮込むとトロトロになる聖護院大根、色鮮やかな京にんじんなど、待つ楽しみも尽きない。

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