昔、エジプトからの賓客を銀座の小料理屋に案内したことがあります。カウンターの前に座り、目の前でぐつぐつ煮えるおでんを「和風シチューだね」とご機嫌で眺めていた客人ですが、こんにゃくを口に入れるや、微妙な表情に......。箸もピタリと止まりました。
「これは何ですか」
「さといも科の芋が原料です」と説明したいのですが、適切な英単語が思い浮かばず、客人は、未体験の味と食感に困惑し、首を振るばかり。口には全く合いませんでした。
彼は教養人でしたから、禅寺の精進料理には欠かせない食材であることや、煮ても焼いても食べられないこんにゃく芋から、手間をかけて生みだすことに、「精進」という発想があると説明していたら、反応が違っていたかもしれません。当時の自分の無知ぶりが悔やまれます。
それにしても、こんにゃくって不思議な食べ物。味があるようでないような......。食感も独特。外国人には「何、これ」と言われても、日本人は時々、無償に食べたくなってしまう。
これも昔の、そしてエジプト滞在時の頃の思い出です。
20代の頃、寄宿していたカイロ在住の日本人一家のところに、「こんにゃく粉」を土産に遊びに来た人がいたのです。これは周囲の日本人にも大受けでした。説明書を読みながらとこんにゃくを手作りし、貴重な味噌を使った田楽やピリ辛炒めを囲んで、ささやかなパーティーを開きました。手作りこんにゃくの食感は懐かしくて、みんな「おお、こんにゃく!」と感動。日本人には、無くてはならない食材なのですね。
最近、ヨーロッパでは、健康食品として、こんにゃくが注目されているそうです。でも、ちゃんとおいしいものが海を渡っているかしら。私は粉ではなく「生芋」から作られる健菜こんにゃくの、旨みや味浸みのよさだけでなく、サクッ・フワッとした食感がとても気にいっています。これなら、あのエジプトからの賓客も、抵抗なく食べてくれたかもしれません。リベンジしたいな。
(神尾あんず)
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