津軽半島の日本海側に屏風山とよばれる一帯がある。名前は「山」だが、高い山はなく、防風林におおわれた砂丘があるだけだ。江戸時代、津軽平野から見ると、松林の展開する様子が屏風のようだったことから、この名がついたと言われている。
この一帯の特産品として知られているのが屏風山すいかだ。生産が始まったのは50年前のこと。昼夜の寒暖差が大きい気候や水はけのよい土壌を生かし、生産者の努力の末に、全国から高評価を受けるブランド果実に成長した。
その出荷は8月がピーク。品種は「縞王」といい、昔ながらの大玉だ。
健菜倶楽部では、昨年から越後谷さん一家が栽培するすいかをご案内している。屏風山すいかの中でも、群を抜く、特別な存在だ。
「特別なことは何もないですよ」
68歳になる越後谷俊仁さんは、50年かけて編み出してきた自分の栽培方法について、あまり語らない。それは「口で説明するより、食べておいしいと思えるかどうかがすべて」という、農家としての気概ゆえだろう。
「父は『いいものじゃなければ、作る意味がない』とまで言う人。こだわりは半端なものではないし、周囲の栽培法とは色々なことが違っていると思います」
そう言うのは、長女の仁美さんだ。
例えば、土。
他と違い越後谷農園では、秋、翌年のための土作りをする。地下にできた板状の堅い層を壊すのが独特のやり方。混ぜる肥料はわずかで、内容も独自のものだという。
それが、雪の下でゆっくり熟成し、果実がのびやかに育つ健康な土壌を作り上げていく。
茎は長く伸ばさない。一株に生らす果実の個数は、株の状態によって細かく調整する。縞王という品種は、一株一果穫りがいいとは限らないからだ。
摘果・摘芯の目利きの技術は、やがて収穫する果実の食味を大きく左右する。その技術にも、越後谷農園独特のセオリーがある。
取材の最後、俊仁さんに「こだわり、めざしてきたおいしさとはどんなものなのか」とたずねた。
「むずかしい質問ですね」と言いながら、返ってきたのはこんな言葉だった。
「作り手も食べる人も元気になるすいか......。というより、健康になる果実。ビタミンやミネラルといった栄養がすべてバランスよく含まれ凝縮されている果実だと思う」
おいしさの基本は健やかさだと俊仁さんは考えていた。
そのすいかの個性はひと言でいえば「コク味」にある。おそらくコク味の元になっているのは、シャリ感がありながらも、果汁を閉じ込める果肉の緻密さと粘りだ。それは高い栄養価と無関係ではない。もちろん糖度は14度と抜群に高い。しかし、甘いだけでない力強さを秘めている。夏の盛りを楽しむ絶品すいか。ぜひ、ご賞味ください。
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