北海道の果物王国に 赤い実りの秋がやってきた。

北海道余市の南西斜面に安芸農園はある。
温暖化が進む今、もっとも注目される果実の栽培適地で健菜果実は育っている。

 10~11月は、安芸農園が1年でもっとも賑やかになる季 節だ。つがる、あかね、姫神、昂林といったりんごが次々に完熟していく。いっぽう、ぶどうの収穫も始まる。広大な丘の園地で栽培しているのは、「健菜プレミアム葡萄ジュース」の原料となるワイン用のぶどうだ。さらにハウスでは、ささげの収穫が終盤を迎え、来年の準備にとりかかる。
 北海道の秋は短い。駆け抜けていく秋を、安芸慎一さん一家は、あわただしく、そして収穫の喜びとともに過ごす。

旬のりんご

「もっときれいなところを見せたかった」
 果樹園を案内しながら、そう話す安芸さんの声には、無念さがにじんでいた。理由は、前日に北海道を縦断した台風が、多くのりんごを落果させたからだ。いつも手入れが行き届いている安芸農園では、これまで、地面にりんごがごろごろ転がっている光景を見たことがない。それだけにこの日、園地を撮影されるのが残念でならないのだろう。
「玉太りすると風の害を受けやすい。覚悟はしているのです」
 そう言うと、安芸さんはこう付け加えた。
「残ったのは、強風に負けずに枝から離れなかった、たくましいりんごです。一段とおいしいはずですよ」
 そう話す安芸さんの背後には、果樹が整然と並び、美しく色づいたりんごが、秋空の下で元気な姿を見せていた。
 それを見る安芸さんの目はやさしい。
「りんごが、ぼくたちを学校に行かせてくれたのですよ」と。
 

 安芸家がこの地に入植したのは5代前のことだ。りんご栽 培を始めたのは3代目の祖父。果物王国といわれる余市の果実栽培を軌道にのせたのは、祖父と仲間たちだった。
 祖父から父へ、そして自分へと果樹園を引き継いだ安芸さんは、園地を丘の上の南西斜面へと広げてきた。標高60メートル、水はけがよくて、日本海からの風が吹き、1日中、太陽の光がさす絶好の園地だ。
 ここで、安芸さんは個性が際立つ4品種を選び、栽培している。ふじのように、収穫後長期間保存しておいて漸次出荷する品種はない。つまり、「旬」があるりんごたちだ。
 たとえば、あかね。今では希少な品種だが、根強いファンがいる。「硬くて酸っぱい」と誤解されがちだが、それは安芸農園のりんごを知らないから。甘く香りが高い旬の味を一年中味わえるように、健菜倶楽部ではジュースを絞っている。
 このあかねの後には、昂林や姫神の収穫が控えている。
 どのりんごも、栽培のポイントは、甘味と酸味の調和が生まれるように、肥料を抑え、活発な光合成を助け、完熟させること。袋がけせずに、自然に赤く染まるのを待つことだという。
 酸味がある品種は、それと調和する甘さを引き出すことで、いっそうおいしくなる。「まだまだですが......」という安芸さんのていねいな試みが続いている。


こだわりのぶどう

 りんご栽培は3代目だが、ワイン用のぶどう栽培を始めたのは安芸さん自身だ。昭和58年に栽培を開始し、仲間とともに余市をワイン用ぶどうの名産地に育ててきた。ワイナリーがぶどうに求める要求は多様だ。甘く、渋く、色は濃く、いや薄く...これらに応える精緻な技を、安芸さんは20年かけて磨いてきた。けれど、それでは満足できなかったらしい。なぜなら、下戸だから......。
「で、究極のぶどうジュースを作ろうと思ったのです」
 そして生まれたのが、健菜プレミアム葡萄ジュースだ。赤はカベルネ系の2品種を栽培し、味と美しい色にこだわった。

 白は、香りが華やかな露地ものと、糖度が高いハウス栽培のナイアガラをミックスした。ジュースの話になると、「認めてくれる人がいてうれしい」と安芸さんの顔はほころぶ。
 しかしじつは、安芸さんがさらににこやかになる話題がある。それは6代目となる長男の元伸さんがUターンし、本格的に農業を始めたこと。父子で安芸農園の将来について語ることもある。安芸農園の作物は、さらにおいしさを高めることになりそうだ。


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