潮風が吹く農園で育てる、「くすり」になる野菜

「作物の栽培は、子どもを育てるのと同じ」
そう語る生産者の農園では、大根が収穫最盛期を迎えていた。

 佐原敏樹さんの農園は、取材班泣かせだ。遠州灘を間近にした農園は、海から強風が吹いていることが多い。この風が、質問に答える佐原さんの声をかき消してしまう。訪問のタイミングが悪くて、雨上がりでぬかるんだ赤土に足を捉えられたカメラマンが動けないこともしばしばある。
 けれど、潮風は海由来のミネラルを畑にもたらし、野菜の栄養価を高めている。三方原台地の南縁に位置し、海に向かって傾斜している農園の土壌は、礫まじりの赤土だ。水もちも、水はけもよい土壌は、生産者が「こうしたい」と考える栽培管理を行うには最も適している。さらに全国トップクラスの日照量や温暖な気候などにも恵まれた農園だ。
 この地で、佐原敏樹さんは、「くすりになる野菜をつくりたい」と話す。薬効をうたいたいわけではない。食べるほどに健康を高める野菜を栽培することが、佐原さんの目的だ。

子どもを育てるように

 「野菜づくりは、子どもを育てるのと同じです」
 佐原さんがそう考えるようになったのは、30年前、我が子がアトピーに苦しんだことがきっかけだ。食べ物が原因でアトピーが起こるなら、食べ物で治せるはずだと考えたという。それを自分でつくろうと、改めて植物の生理や栽培法について研究し続け、試行錯誤しながら、今のやり方に行き着いた。

「大根は小指ほどに成長するまでが一番肝心。赤ちゃんの時期ですから」
 だから、この時期は、粉ミルクのようにやさしく吸収できる養分を与える。
「肥料を大量に混ぜて、肥えた土をつくる生産者が多いけれど、あれは赤ちゃんに肉の塊を無理に食べさせているようなもの。よくありませんよ」
 作物を命あるものとして扱う佐原さんは、播種前から収穫まで、その成長や状態に合わせて、何段階にも分けて、栄養素やミネラルを与えていく。農薬はぎりぎりまで減らしてきた。そして、吸収した養分を全て使い切って収穫期を迎えるように育てる。人間にとって有害成分となる硝酸態窒素が、野菜に生成されることもない。
「軸を囓ってみてください」
 そういうと、佐原さんは大根の葉の部分をポキリと折って差し出した。それは、みずみずしくて甘く、ポリポリと囓ることが止められない。くすりになる野菜の味だ。

栽培法を仲間と共有

 佐原さんは、春から夏にかけてはじゃがいもを、秋から冬は、大根を中心に、キャベツやブロッコリーを栽培している。じゃがいもは身が引き締まりずしりと重い。みずみずしい大根も果肉が緻密で、細くても重い。味に癖がなくて、たくさん食べられるのも特長だ。

「冬野菜は鍋料理などで、たくさん食べられます。健康のためにどんどん食べてほしいんです」 
 佐原さんの農園は、現在、20カ所に点在しているという。さらに、地域の仲間とグループをつくり、栽培法を伝えている。くすりになる野菜づくりを広めることも佐原さんの活動だ。それだけに責任もある。
「目下の課題は、温暖化にどう対応するか、です。荒ぶる気候に負けず、作物が健康に育つにはどうするか......。試行錯誤に終わりはありませんね」
 これからも、佐原さんの農園から届く野菜に期待したい。

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