「Jなら何と言うかな」
はじめて健菜のみかんジュースを飲みながら、ふと思い出したのは、25年近く会っていないアメリカ人のことでした。
「これなら、文句は言わせない」と。
Jは夫の職場に来てくれていた英会話の個人教授です。夫より20歳ほど年長でしたが、アメリカ人には珍しく(?)、アクションが控えめで、お酒が飲めないという共通点もあるので、夫とは気が合い、夫婦ぐるみで付き合っていました。
そんなJの休日プランは居心地のよいホテルでまず、ゆっくりとブランチを取り、それから展覧会や公園に出かけるというのが定番でした。最初は戸惑いましたが、私たちも気に入って、何軒かのホテルの朝食を味わうことになりました。
Jには、最初に出されるオレンジジュースこそが最大の関心事です。求めているのは、搾りたてのフレッシュジュース。これさえあればハッピーになるのですが、しかし、輸入オレンジが高価だった当時、それは滅多になく、果汁100%のジュースであれば、及第点でした。
ところがある時、Jがグラスに口をつけるや否や、「コレハ、ミカンデス。オイシクナイ」と顔をしかめたのです。その後、カリフォルニア・オレンジを絶賛する長広舌が続いたので、私はムッとして心の中で「日本に来たら"みかん"でしょ」とつぶやいたものです。
とはいえ、彼の言い分が分からないわけではありません。あの頃のみかんジュースは、香りがなく、味もぼんやり。
だから、健菜のジュースをはじめて飲んだときは、「おいしい」とびっくりしました。冬の健菜みかん、そのままの味がします。甘酸っぱくて味が濃い、あの味です。
もし、Jがこれを飲んだら、オレンジ一辺倒から宗旨替えするのではないかしら。
じつは、すでにわが家には宗旨替えした人間が一人います。それは夫。酸っぱいのが苦手な夫は、オレンジジュースは好みませんが、みかんジュースをとても気に入った様子。庭仕事で汗をかいた後にも、「これこれ」とうれしそうに飲んでいます。素直な甘さと爽やかさが、たまらないそうです。
(神尾あんず)
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