夏も本番。最近は、健菜のジュースから一日が始まります。「次はどのボトルにしようかな」と迷いつつ、昨日の朝、みかんジュースの封を切りました。真夏にみかんの甘酸っぱさに舌鼓を打てるなんて、昔は考えられませんでした。
すると夫が「子どもの頃は、冷凍みかんがあったじゃないか」と言い出したのです。そう、確かにありました。なぜか、列車で旅行する時にだけ登場したみかん。「楽しみだったよね」と夫は言いますが、また、食べたいかとたずねたら、「それほどでも」という返事。「懐かしい味=おいしい」とは限らないからですね。
ところで、昨今のテレビはお手軽なグルメ情報が氾濫気味。タレント諸氏の「めちゃおいしい」というコメントには飽き飽きしていますが、最近は「これまで生きてきていちばんおいしい」という言葉も準定番化しつつあるようです。でも、そんなに軽々しく言ってほしくないなあ。
じつは、私には「これを超えるジュースには一生出会えない」と確信している一杯があるのです。
それは三十年前、インドの地方都市の屋台で飲んだオレンジジュース。暑い日でした。その日、訪問した各所でふるまってもらった現地の水を、相手に気付かれないように一日中我慢していたのに、知人のインド人がおごってくれたそのジュースは断れませんでした。その場で手回しのジューサーでオレンジを搾り、曇ったコップになみなみと注がれた生ジュースは、お腹を壊すに決まっています。
しかし、おそるおそる口を付けたら、その後は一気飲みでした。「ああ、おいしい!」と。
私の人生でいちばんのジュースはあれ。懐かしくておいしい記憶です。
さて、日々の暮らしの中で、目下、私がもっともおいしいと感じているジュースは健菜のもの。特に、真夏に飲むみかんジュースが大好きです。食生活はこれからも変化していくでしょうが、きっと、飽きることなく飲み続けるのではないかしら。「懐かしい」という過去の味にはしたくないものです。
(神尾あんず)
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