稲刈りを終えた田を乾かさず。
水を張った冬水田んぼ。
その下で、小さな生物たちが冬を越す、
すでに土は耕かされて、
春の田植えを待っている。
風にのって響いてくるのは、刈り入れの音、
棚田で働くコンバインは小さくて。
くるくるまわって稲を刈る。
収穫がおわれば、田んぼもひと休み。
冬の訪れを静かに待つばかりだ。
風がわたると黄熟した稲穂が揺れる。
まるで田全体が揺れ動いているように。
中に立つと、潮騒に似た音に満ちている。
日ごとに稲穂は重みを増す。
色は黄金に輝き始める。
完熟まで、あと 5 日。
稲は穂に綿のような花をつける
開花は朝。そして
太陽が照りつける頃には籾を閉じる。
いよいよ実りがはじまる。
小さな命の決定的な一日だ。
風にゆれ、花穂で休むバッタには。
実りの気配がわかるのかもしれない。
田植え直後の苗は、
水にゆれて儚く見えていた。
けれどたちまち姿を変えていく。
葉が太る。葉が増える。
葉丈も伸びる。
そして、たくましくなる。
一面が緑に覆われて、夏がくる。
吉川は水の里だ。
冬の豪雪は、春にとけて川になる。
夏、ブナ林の地下からわき出した名水は
流れくだって田んぼを潤す。
秋、水の旨さをその実に取り込んで、
稲は実る。
田植えを終え、一日が終わる。
そよそよ揺れる苗は小さくて、
田んぼは空を映す水鏡だ。
今宵から、苗はどんどんのびていく。
一気加勢に葉が増える。
水鏡は瞬く間に、緑に変わる。