収穫どきの賑やかさはどこへやら。
静まり返る冬田に、やがて山の雪が降りてくる。
里では人が、森では動物が雪迎えの準備に慌ただしかろう。
手で刈り、束ねて、稲架(はさ)にかける。
復活した収獲作業は人手が頼り。米の仕上げは自然が頼りだ。
涼風と太陽が、ゆっくりやさしく稲を干し上げる。
棚田は一枚一枚小さくて、曲がりくねっている。
コンバインを操って、刈残しなく稲を刈るのはむずかしい。
「要は、道筋を見極めるセンスと操作技術!」
棚田には、そう運転自慢する人が多い。
稲穂を黄金に変えるのは季節の力。
植物の生命力を秋の風と太陽が加勢する。
その実を旨くするのは人の技。年々繰り返す
自然のことわりに、感謝しながら収穫を待つ。
7月、茎の中に生まれた幼穂が、外に現れるのは8月。
稲の花が咲き、1日で実を結ぶ。
実はぐんぐん膨らみ重くなる。
夏の田んぼで、ダイナミックなドラマが静かに展開している。
夏至まで2週間。いつまでも沈まない太陽が
水を温ませ、幼い苗を照らす。
大きくなれよ、丈夫に育て。
野良仕事する人に替わって夕日がささやく。
作業を止めて畦に上がると、「小昼(こびる)」が待っていた。
煮しめ、漬物、煮豆におにぎり......。朴葉は取り皿だ。
「小昼」は田植えの労をねぎらう、おやつの宴。
豊作であれとの願いがこもる。
「畦道に桜木を植えたのは、この日のためさ」
桜花が映る水鏡を指さして、田んぼの主は言う。
雪が解け、一気呵成の春が来た。
花がほころび、水がぬるみ、人も微笑む。
背負い籠いっぱいのぜんまいを、何回、山から運んだだろうか。
山菜狩りは楽しいが、そのあとは手間がかかる。
茹でて干して手で揉んで、を繰り返す。
春の光を浴びて庭仕事。
今日は、雪間に蕗の薹が現れた。雪解け水も流れ出す。
「どこかで春が生まれている。どこかで芽が出る音がする」
唱歌を口ずさみたくなる、春が来た。
一昨日は吹雪だった。昨日は大雪。でも、今日は
青空が顔を出し、雪がきらきらと光り出す。
雪の模様はまだらだが、ほどなく白一色に変わるはず。