収穫後に土を耕し、水をはり、冬を待つ。
春を迎える準備を終えた棚田は、やがて雪に隠れてしまう。
その下で、土壌微生物や昆虫が、命をつないでいく。
秋の棚田は黄金色に輝いて、豊穣の季を刻む。
その一角にある菜園では、まだ、夏野菜が実っている。
きゅうり、なす、オクラ......、名残の美味も格別だ。
点々と早苗が並ぶ5月の田んぼは叙情的。
空を映す田水は、刻々と色を変えて夕暮れ色に染まる。
稲葉で田水が隠れるまでの、つかの間の美景だ。
小さくて不定形の棚田で働く田植機は、歩行型だ。
ぬかるむ土を踏みながら、人が押していく。
苗の列と並んで残る足跡は、やわらかい土に埋もれていく。
棚田の傍らに花樹が一本。水面に花影を映す。
木陰は稲作には好ましくないはず。なぜ、ここに?
花を愛でる心が、稲作の知恵に勝ったのだろうか。
芽吹きから若葉へ、そして新緑へと変わるブナ林。
春、尾神岳の木々は慌ただしい。
けれど、残雪は長閑なもの。木の根元から消えていく。
除雪車の働きで、毎朝、集落の道は通行可能になる。
道路わきの雪壁は日ごとに高さを増して、家の軒を超えた。
あとの始末は人ではなくて太陽が頼り。春の陽を待つ。
「冬冬」と書いてとんとん。冬の到来を告げる音だという。
やがて、こんこん、しんしんという音とともに
棚田は深雪に覆われ、田水さえが見えなくなる。