健菜米コシヒカリのふるさと、新潟県上越市吉川地区の風物詩をお伝えします。
棚田の傍らに花樹が一本。水面に花影を映す。
木陰は稲作には好ましくないはず。なぜ、ここに?
花を愛でる心が、稲作の知恵に勝ったのだろうか。
芽吹きから若葉へ、そして新緑へと変わるブナ林。
春、尾神岳の木々は慌ただしい。
けれど、残雪は長閑なもの。木の根元から消えていく。
除雪車の働きで、毎朝、集落の道は通行可能になる。
道路わきの雪壁は日ごとに高さを増して、家の軒を超えた。
あとの始末は人ではなくて太陽が頼り。春の陽を待つ。
「冬冬」と書いてとんとん。冬の到来を告げる音だという。
やがて、こんこん、しんしんという音とともに
棚田は深雪に覆われ、田水さえが見えなくなる。
代掻きを終えた冬水たんぼ。来年の米づくりの準備も一段落。
その水面に錦秋を映して、静まりかえる。
春を待ちながらも、暮れていく秋を惜しむかのように。
棚田は四角くない。一枚一枚が小さくて不定形。
だから、コンバインがあちらこちらを刈り残す。
「仕方ないよ」と田んぼの主は手で稲を刈り、脱穀をする。
霊峰・尾神岳は鳥人たちのメッカだ。
鳥人の目に映る吉川の四季は、さぞ美しかろう。
黄金のパッチワークが点在する秋は一際に......。
棚田は小さくて不定形。そこで田植機をどう動かすか?
隙間を残さず、素早く無駄なくと、田んぼの主は知恵を絞る。
そよそよと風に揺れる早苗の行列は、その成果。上出来だ。