代掻きを終えた冬水たんぼ。来年の米づくりの準備も一段落。
その水面に錦秋を映して、静まりかえる。
春を待ちながらも、暮れていく秋を惜しむかのように。
棚田は四角くない。一枚一枚が小さくて不定形。
だから、コンバインがあちらこちらを刈り残す。
「仕方ないよ」と田んぼの主は手で稲を刈り、脱穀をする。
霊峰・尾神岳は鳥人たちのメッカだ。
鳥人の目に映る吉川の四季は、さぞ美しかろう。
黄金のパッチワークが点在する秋は一際に......。
棚田は小さくて不定形。そこで田植機をどう動かすか?
隙間を残さず、素早く無駄なくと、田んぼの主は知恵を絞る。
そよそよと風に揺れる早苗の行列は、その成果。上出来だ。
「やってみたら」と生産車が悪戯心で誘った都会人。
田んぼに入るや否や、「一歩も動けない」と悲鳴を上げた。
あははは、誰しもが笑う。田植えはたいへん。でも楽しい。
尾神の街道沿いに立つのは樹齢300年のしだれ桜だ。
花季は4月半ば。いつもは祭りで賑わうが、今年はいかに。
老木は、春の宴の再開をひっそりと待っている。
日毎に陽射しが増している。田の水面も現れた。
「真白にみえし、雪きえて、野はおもしろく、なりにけり」
唱歌のままに、楽しみな春がやってくる。
深夜、除雪車がつくった道が、暮らしを支える。
雪壁は、まだ、日毎に高くなるばかり......。
それが溶けて消える春を待ちながら、キシキシと道を歩く。
小正月の雪原にたなびく煙は、塞ノ神の階段だ。
疫病退散、豊作祈念......。
火祭りに集う村人の願いとともに天に昇っていく。