「カリフラワーが好き!」 畑には生産者の気持ちが詰まっている

 「私のからだはカリフラワーでできているの」

 中村直子さん(62歳)は、そう言ってから「な〜んてね」と朗らかに付け加えた。
 豊川市の畑を訪れたのは、昨年の3月半ば。そんな言葉から、取材は楽しく始まった。例年なら収穫が始まる時期だったが、昨年は生育が遅れていた。これは1月から2月にかけて、全く雨が降らなかった上、低温が続いた影響だという。
 「その代わり、糖度が上がり、おいしくなるのでは?」と勝手に解釈すると、中村さんは「そんなに都合よくいくかしらね」と笑った。そして言葉を続けた。
「もちろん、品質のよいものは出荷できる見込みですが」と。

カリフラワー栽培歴40年

 愛知県東部に広がる東三河一帯は、温暖な気候と豊富な日照に恵まれた農業王国だ。営農農産物だけでも百種類以上あり、その生産額も日本有数だという。
 中村さんの畑のある地域は、水はけの良い土壌の農地が広がり、秋冬は白菜やキャベツ、夏はとうもろこしなどの栽培が盛んに行われている。じつは、カリフラワーの生産者は少数派だ。
「でも、私はカリフラワーが好きなの」と中村さん。
 その理由をたずねると、しばらく考え込んでしまった。そしてひと言。
「なぜ、好きかなんて、言葉にするのはむずかしいわ」

 中村さんのカリフラワー栽培歴は四十年以上になる。結婚し、中村家の一員となったときには、義父母がすでにカリフラワーを生産していた。一緒に作業をし、その栽培方法を習い、身に付けて、今がある。そして、現在は、会社を定年退職した夫と二人で畑の世話をしている。親の代には他の野菜を作っていた畑も、徐々にカリフラワー栽培に切り替えてきたという。「カリフワラーづくりは面白い」と言っている夫もこれに賛成しているそうだ。じつは「もっと栽培面積を広げほしい」と出荷先から要望されることもあるが、規模は拡大せず、二人の目が隅々まで届く範囲に絞ることに決めている。
 その栽培方法の基本は、「お義父さん、お義母さんゆずり」だというが、肥料や農薬を可能な限り抑えて、安心安全を第一に考えている。

「美しい」は 「おいしい」

 健菜に出荷しているカリフワーは、前年の9月に種を蒔き、ハウスで育苗してから、11月に畑に定植している。カリフラワーは、寒さに当たると茎の頂上部に花蕾を結ぶ。そして、冬、「三河の空っ風」と呼ばれる北西の季節風に吹かれながら、花蕾はぐんぐんたくましさを増していく。
 この日、中村さんの畑はゴワゴワした葉に覆われていた。遠目からはキャベツ畑のようだが、近くに寄ると葉はギザギザと尖っていて、かなりいかつい。
 けれど、その葉の中をのぞき込むと、白い泡をギュッと固めたような美しい塊がむっくりと盛り上がっている。純白で、なんとも美しい。

 「きれいですね」と感想をもらすと、「私はきれいなカリフラワーを作りたいと思っているの」と中村さんはうれしそうだ。
 それを、もう少し具体的に言葉にすると、どんなカリフラワーなのだろうか。
「まずは真っ白なこと」
 色が黄色みを帯びるのは、花蕾が緩み、開くシグナル。食味も落ちるだけに、美しい白にこだわるのだという。そして、「花蕾が引き締まっていて重いもの。もちろん傷なし。茎は太いほうがいいわね」と言葉を続けた。
 中村さんの言う「きれい」は、「おいしさ」としっかりと結びついていた。
 さて、中村さんの畑は、今年もそろそろ収穫期を迎える。カリフラワーは、株を引き抜いてから、ササッと外葉を切り落としていく。同じ、アブラナ科で花蕾を食べるブロッコリーは茎付きの状態で収穫するが、カリフラワーは花蕾ぎりぎりのところで茎と切り離す。
「だから、つい指を切ってしまうのよね」と中村さんは笑った。今年は、指を切らずに、収穫してほしい。
 美しいカリフラワーが届くのを楽しみに待ちたいと思う。

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