健菜米 / 収穫の季節がやってきた

異常な猛暑と干ばつ、今年の米づくりの環境は厳しかった。
でも、生産者が丹精を込めて育てた健菜米の実りは豊かだ。

 健菜米コシヒカリの収穫時期がやってきた。上越市吉川区を訪れたのは収穫を1〜2週間後に控えた9月10日。この日、撮影した中村昭一さんの棚田、中嶋琢郎さんの伸びやかな田んぼ、そして谷筋に拓かれた曽根倔さんの稲田も、それぞれに美しかった。四季折々、吉川の風景を前にすると、その穏やかさに心が洗われる。中でも初秋の美しさは格別だ。豊かな実りを前に心が躍るからだろう。

素人でもわかる健菜米の姿

 永田農法で栽培されている健菜米コシヒカリは、背丈が低くて、かっちり。澄んだ黄色に色づいている。背高のっぽでやや濁った色をしている慣行栽培米との違いが、遠目でも見分けられる。
 中嶋琢郎さんの田んぼには、緑色が残っている稲がある。これは晩成種の酒米「山田錦」だ。かつて、山田錦の北限栽培地とされた吉川だが、今では、西日本を凌駕する品質で、栽培適地が北に移動したとまで評価されている。
 中村さんの棚田は、黄色と金茶色のパッチワークだ。前者は健菜米コシヒカリ、後者は、希少なもち米「〆張糯」の田んぼだ。野生種に近くてひょろひょろと徒長しやすい品種だが、中村さんの〆張糯はたくましい。
 そんな稲の様子を確認しながら畦道を下っていくと、突然、青々とした稲田が現れた。開花を終えたばかりにすら見える。これは何だろう?
「『にこまる』という品種です」
「栽培は3年目。隠していたわけではないけれど...」
 そう言いつつ、山本秀一さん(永田米研究会会長)と中村昭一さんが、西日本で栽培されている品種を試験的に栽培しているのだと説明してくれた。温暖化で激変する栽培環境に適応でき、食味が良い米を探して選んだ品種だ。
「コシヒカリに匹敵する米になるかもしれませんよ」
 思えば、永田農法も、山田錦や〆張糯も、この二人が栽培に挑戦し、高い食味を実現した。
「にこまる」には同じ可能性があるのかもしれない。

難しかった米づくり

 二人は、畦道を歩きながら、稲の状態をつぶさに観察しては、意見を交わしていた。
「おお、いいですね」
 稲株を引き抜き、細かい根が密生している様子を見ながら山本さんが言うと、中村さんは「ええ」と、顔をほころばせた。「土の表面が黒い。他では見られないですね」
 これは、永田米研究会で数年前から取り入れてきた、独特の土づくりの成果なのだという。微生物の活動が活発で、毛細根の繁茂を助ける健康な土だ。そして、その根が米のおいしさを高めてくれる。
 ところで、この日、小さな異変に気がついた。例年、トンボが飛び交い、畦道に足を下ろすたびに無数のバッタやイナゴが飛び跳ねるのに、その姿がない。どうしたことだろうか。
「気候が異常だったからでしょう」

「おかげで、今年の米づくりは難しかった」
 梅雨明け後、雨らしい雨がほとんど降らなかった上、猛暑の日が続いたからだ。そのために生産者たちは、田んぼの管理に、例年以上の力を注いだという。その成果は、健康に登熟しつつある稲の姿に現れていると感じられた。
 この日、籾を割り、中の米粒を確認する時の二人の表情は真剣そのものだった。
 実は、吉川最奥にある曽根さんの田んぼでは、一部だけ収穫をしていた。その米粒をカルトン(皿)に並べてみると、元米穀検査官(農水省技官)の曽根さんの表情がパッと明るくなった。 「この米づらなら、合格だね」と。
さて、他の健菜米の出来はどうだろうか。収穫後の報告を楽しみに待ちたい。

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