清らかな環境の中、力強く育てることで、健菜米コシヒカリの純粋な味わいは生まれます。6月上旬、田植えを終えたばかりの健菜米生産地・新潟県上越市吉川区を訪ねました。
今回は、そのようすをお伝えします。
新潟県上越市吉川区は、区域のほとんどが山、山、山。村のシンボル・尾神岳をはじめ、大小合わせていくつもの山が折り重なり、複雑な地形を作っています。
その山にはところどころ棚田が刻まれ、近くに小さな集落がぽつん、ぽつんと点在します。吉川の風景は、だれもが懐かしく感じる、日本の原風景そのもの。自然豊かな美しい農村で、健菜米コシヒカリは育っています。
梅雨入り目前ともなると、木や草はますます旺盛に枝葉を広げ、田んぼの端まですっぽりと覆いつくします。
だから、いまは草刈りシーズン。
健菜米の田んぼでも、草刈機の音をブイーンと賑やかに響かせ、生産者たちが汗を流しています。
山道を上った先、ひときわ標高の高い大賀集落に、中村昭一さんの棚田はあります。こちらも8割方草刈りを終え、棚田は美しい姿になっていました。
「今年はみんな雨がないと嘆いていますよ。棚田はとくに水の確保が難しいですからね。うちの溜池も半分以上干上がってしまいました」と中村さん。
たしかにここまでの道すがら、水が少ししかない田んぼや、乾いてひび割れた田んぼがいくつもありました。
今年はゴールデンウィークごろから雨に恵まれず、6月半ばを過ぎても、新潟では一向に梅雨入り宣言が出されません。
案内してくれている山本秀一さんも、「そういえば桐の花がきれいだね。桐がよく咲く年は凶作だなんて言うっけ」と不安なことを言い出します。
今年の米はどうなる...?
ふつうなら悲観的な状況なのに、中村さんも山本さんも、まだ余裕の表情です。
「私のところは水が少ないですが、山本さんのところはそれほど心配はありません。同じ吉川でも、立地により条件はさまざま。だからみんな、思い思いの工夫をするんですよ」と中村さん。
たとえば中村さんの棚田。ここでは、「冬水田んぼ」を実践しています。
「冬水田んぼ」とは、文字通り、冬にも田んぼに水を張っておく伝統の技術です。無駄に雑草が生えるのを防ぎ、一定の温度が保たれることで微生物が活発に働き、よりよい土作りができるというもの。
「水の不足しがちな棚田ではこれがとくに有効です。冬に水が土中深くまで浸透することで、田植え以降も高い保水力を維持できます」
今年はそれが大きな強みになるはず。限られた水資源を有効に使うための、先人の知恵です。
一方、水の心配があまりない山本さんは、この時期に夜に田んぼの水を抜く「夜干し」をしています。
晴天続きで気温が高いと、土中にすき込んだ稲わらの発酵が活発になり、ガスが出て根を痛めてしまいます。そこで山本さんは、夜の低温に当てつつガス抜きをして、根をしっかりと育てようというのです。
「私たちは、先人の教えを上手に利用しながら、永田農法の理念に忠実に米作りをしています。本来植物は、生命力の固まり。だから私たちは、その生命力を生かして、力強く育てるのです。そんなお米なら、どんな天候でも乗り切れますよ」と中村さん。
20年ほど前に結成した、永田米研究会では、いまも喧々諤々と活発に議論し、互いに切磋琢磨しながら、健やかさとおいしさを目指しているのです。
永田農法を取り入れ、肥料減・農薬減を徹底した田んぼでは、絶滅危惧のメダカもトノサマガエルも、元気な姿を見ることができます。
「以前、飼っていたヤギに、肥料の効いた草と、無肥料の草を食べ比べさせたことがあります。ヤギが選んだのは、無肥料の草でした。本能で、どちらが体によいものか見極めたのでしょう」
肥料を多くやると稲の成長は早まりますが、硝酸態窒素などの有害成分を蓄積することになるし、環境への悪影響も懸念されます。
「人間は、食べて安全なものを本能に従って選べませんから...。健菜米はほぼ無肥料。安全・安心には自信があります」と中村さん。そして言葉を続けます。
永田農法の米や野菜は、健康食品のようなものです。有害成分の心配なく、高い栄養を摂り入れられる。とくにお米は、私たち日本人にとって大事な主食です。毎日食べるものこそ、いいものを選んでほしいと思います」
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