三河の空っ風の下、甘く大きく。白菜の産地を訪ねる。

健菜の冬野菜は甘く、旨みが特に高い。
その代表が東三河で栽培されている白菜だ。

 白菜は、寒さが増してくると、おいしくなる冬野菜の代表だ。そんな白菜の産地の一つ、愛知県豊川市ののびやかな農園を訪れたのは、昨年の1月初め。オレンジ白菜が収穫の終盤を迎え、収穫の中心が黄芯白菜に移りつつある農園では、牧内庸保さんと冨安基之さんが待っていた。共に48歳だというふたりは、白菜づくり25年以上になるベテランだ。

寒風の下で美味を増す

 この日、畑には寒風が容赦なく吹き付けていた。「寒い!」という言葉が思わず口をついて出る。
「そうでしょう。東北など雪国の人がうちより寒いと驚くそうですから......」と牧内さんは言う。
 豊橋や豊川といった東三河地方の気候は、温暖で豊富な日照に恵まれている。ただし、冬は日本アルプスを越えてくる北西の季節風、通称「三河の空っ風」がビュンビュンと吹き付ける。
 「強風で白菜の外葉がボロボロになったり、凍結することもあります」と牧内さんが言うと、「その風は、白菜の美味の高めるのに役立っているわけですが」と冨安さんが言葉を続けた。この地は冬野菜の栽培適地だ。
 じつはふたりが管理している畑は、各所に点在しているので、それぞれに土壌の性質が、異なっている。その状態に合わせて、土づくりし、管理の方法も調整しているのだという。

「25年前から、化成肥料は使っていません。これはどの畑も共通です」
 「ぼかし」と呼ばれる完熟の有機肥料だけを使い、時間をかけてつくってきた土には、ミミズがいっぱい棲息しているという。ミミズは土壌中の有機物を食べて、植物が吸収しやすい形にする。土の通気性も高め、微生物と協力して、健全で肥沃な土をつくってくれる最強の土壌改良生物だ。
「この土で育てると味が違ってきます。香りがいいし、えぐみがない。自分たちでも『旨い』と思います」
「とくに、オレンジ白菜のおいしさは、自慢してもいいかもしれない」
 どうやらそれはふたり共通の意見らしい。

むずかしかった、オレンジ白菜栽培

 オレンジ白菜は、ふたりが就農して間もなく開発された新品種だった。球内(内葉)がオレンジ色をしている。二つ割りにして断面を空気にさらすと、その色が瞬く間に濃くなっていく。これは、トマトに含まれているのと同じ栄養素、リコピンによるものだという。

 「当初は、とにかく。作りにくくて苦労しました。種の特性も定着しておらず、タケノコのような形になったりもしました」
「それに、白い白菜を見慣れている消費者に手に取ってもらえず、人気が定着するのに時間がかかりました」
 今では、味の良さで知られるが、それでも生産者は少ない。栽培の難しさや収穫適期の短さが原因だ。その特徴は、グルタミン酸由来の甘さとサクサクとした歯触り。鍋料理などの加熱料理だけでなく、サラダにも向いている。
 一方、黄芯白菜は、かつての白菜(芯まで白い)に代わって、全国的に栽培されるようになっている。その特徴は、葉のやわらかさとみずみずしさ。これもまた、おいしい。
 さて、11月の終わりから翌年の2月まで、ふたりが管理する農園から白菜が届く。最初はオレンジ白菜、その後に黄芯白菜が続く予定だ。その品質に今年もぶれはない。

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