とうもろこしの収穫が始まっている鈴木農園を訪れたのは昨年の6月半ばのことだ。しかし、取材チームが現地に到着した午前10時には、この日の収穫作業は終わっていた。収穫は午前4時30分から7時まで。選果場での出荷作業もすでに終盤だった。
とうもろこしは夜間に養分が凝縮し甘みを高めるが、太陽を浴びると糖度が下がっていく。だから、収穫は早朝限定だ。
その朝採りを、なるべく早く消費者の元に届けるべく、選果場では、素早く選果やパッキングの作業が進められていた。年齢も性別も肌の色もさまざまな30人のスタッフは、チームワークもよくて、みな楽しげだ。
農園は、遠州平野の北端部、三方原台地の東に位置し、温暖な気候と豊富な日照に恵まれた一帯にある。この日、案内してくれたのは、収穫直前の畑だった。
「実が茎から斜めに離れてきている。ひげは褐色、触るとふっくら、採り頃です」と岡本さん。採り頃にこだわるのは、そのタイミングの良し悪しが食を左右するからだ。
「どうかな」と言いながら、ポキリと一本折り、包葉(実を包んでいる薄い葉)をむくと、その手元を見ていた鈴木さん「いいね」と声を上げた。包葉の中では、ツヤツヤと黄色い大粒がもっちり、そして美しく並んでいた。どうやら、明日が収穫のベストタイミングのようだ。
畑の土は三方原台地独特の赤土だ。肥沃ではないが、水はけがよく、栽培方法を工夫するとすこぶる美味な作物が育つ。その土には、小石とともに、目をこらすと貝殻の破片が散らばっていた。
「牡蠣殻です」と岡本さん。
浜名湖産の牡蠣の殻を畑一面に散布しているのだという。牡蠣殻には、土壌の酸性化を中和する効果がある。カルシュウムやマンガンなど、おいしい野菜が育つ上では欠かせないミネラルを豊富に含んでいる。
「父が取り入れた方法ですが、最初は牡蠣殻が土に溶けず、苦労したようです」と鈴木さん。
その後、熱処理をして成分が溶出しやすくなるように改良。形状も、粉状から一目で牡蠣殻とわかるものまで大きさを分け、長く、くまなくミネラルの溶出が続くようにしている。
その成果はおいしさに表れている。
「幼い子どもが2本、ペロリとたいらげるのを見た時はうれしかった。子どもは正直だし、味に敏感ですから」
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