認められた姿勢と技 今年も健菜米の栽培が始まった。

昨年、永田農法での取り組みにより農業賞を受賞した健菜米の生産者たち。 今年も、その米づくりが始まった。

 健菜米づくりが始まった上越市吉川区を訪れたのは6月11日。前日から空模様が気かがりだったのだが、案の定、小雨の合間を縫って写真撮影をすることになった。
「今日あたり、梅雨入りが宣言されそうですね」
 そんな会話を交わしながら、山本秀一さん、中村昭一さんと共に、大賀集落の棚田を巡った。いつも美しい景色を見せてくれる棚田だが、この日は若い苗の活力に目を奪われた。苗はスクっと立ち、煙のように降る雨を喜んでいるかのようだ。
 中村さんが田植えを終えてから2週間。苗は、日ごとに茎を増やし(分結)、葉を増やしてぐんぐん成長している。ただし、もっと大きな変化が起きているのは土の中だ。根っこが増え、伸び、苗をがっしりと支えている。その土に手を入れてみると、まるで、クリームのように滑らかだった。永田農法を取り入れて30余年、微生物が活発に働く土壌づくりを続けてきた田んぼの土はトロトロだ。

植物の生命力を 引き出す

 昨秋、永田米研究会は、新潟県・日本農業賞(NHK、JA全中ほか主催)の集団組織の部で優秀賞を受賞した。審査会に熱心に推薦する人物がいたことが、受賞につながったという。
 「ちゃんと見てくれている人がいるのだ、と嬉しかったですね」と研究会会長の山本さんは言う。というのも、研究会発足当初は「生産量が減っても、品質の高い米をつくる」という姿勢や、肥料や農薬を極力使わない永田農法は、周囲の理解を得られないことが多かったからだ。
 審査では、生産性が低い山間地で永田農法によって環境保全型の米づくりを実現してきたことや、気候変動に耐えて安定した収穫量や味の良い米を栽培する技術を確立していることなどの取り組みが評価された。その米を食べている消費者の存在も受賞につながっている。慣行栽培に比べると圧倒的に生産コストが高くなる米であることが理解され、適正に販売できていることが注目されたのだ。

 最近は、品質重視の栽培であることをアピールする米も増えている。「永田米研究会はその先駆けと見られているかも」と感想を漏らすと 「う〜ん」と中村さんは首を傾げた。
「今はブランド化を目的に品質を高めるとか、食味を上げる方法といった情報が注目される。でも、私たちは少し違う」
 というと?
「植物の生命力を引き出すこと、健康に育てることが、永田照喜治先生から引き継いだ理念。おいしさはその結果です」

地域のためにできること

 この日、源集落でも朗報が聞けた。今年の5月、中嶋琢郎さんがJAえちご上越の「農業賞」を受賞したという。しかし、本人は「10年後だったらもっと嬉しいだろうと思います」という反応。どうやら受賞が、「もっと地域に貢献しなければ」という責任感を重くしているらしい。そして10年後には、その責任が果たせているだろうと考えているようだ。
 

 中嶋さんの稲作面積はもともと広いが、それが年々、拡大している。耕作放棄地を増やしたくないとの思いから、稲作ができなくなった人の田んぼも極力引き受けてきたからだ。それに200軒余りの農家の苗づくりも引き受けている。その苗なしでは米づくりができなくなってしまう農家ばかりだ。農道の草刈り、害獣駆除、それに経験の浅い生産者へのアドバイスなど、高齢者に代わって、地域のためにできることは限りがない。それらに取り組む中嶋さんは地域の人にとって、頼もしい存在だろう。

 報告が最後になったが、健菜米の栽培はすこぶる順調だ。中村高二さんと曽根倔さんの田んぼも訪れたが、すでに健菜米の苗の姿も葉の色も、慣行栽培のそれとはずいぶん違っていた。これから12人の生産者が、植物の生命力を引き出し、どこよりもおいしい米を育てていく。

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