熟畑トマトのジュースが旨い / 北海道余市郡・中野ファームを訪ねて

健菜トマトジュースは、中野勇さんのトマト100%。
北海道余市郡から、毎年、期待通りのおいしさを届けてくれる中野さんと、
その農園のようすをお伝えします。

 北海道余市郡を訪れたのは、昨年10月初旬。中野ファームがある丘から海を見ると、湾の対岸、シリパ山が、早くも初冠雪を迎えていた。ここ数日は地元の人も驚くほど寒い日が続いたという。北海道の秋は足早だ。
 収穫のピークには昼も夜もない状態だったが、訪れた時にはようやく少し落ち着いていた。 健菜トマトジュースは、中野勇さんの朝採りトマトを、すぐに加工場へと運び、24時間以内に瓶詰めする。
 収穫時期は、7〜8月限定。陽の光が最も強い頃の、糖度9度以上の特選トマトだけを使用する。中野さんのジュース用トマトの中でも、わずかな時期しかとれない最高級品のみが、健菜トマトジュースになっているのだ。
 絞りたてのトマトジュースを試飲させてもらうと、さっぱりとフルーティ。特選トマトそのままの味わいだ。これが1年ほど経つ頃には、旨みが増してコクがでる。その変化も楽しみの一つだ。

「今年は長雨でどうなることかと思いましたよ...」中野さんは1年を振り返る。
 なかなか気温が上がらない春、恐る恐る栽培をスタートしたのだが、夏には追い打ちをかけるように長雨に見舞われた。だが中野さんは慌てることなく、樹を観察しながら手をかけ、気候に振り回されずに、トマトの味を守りぬいた。
 中野さんの味はブレない。いつも安定して、高品質のトマトを作ってくれる。健菜トマトジュースが中野さんのトマトでなくてはならないのはこのためだ。
「私のジュースを楽しみにしてくれている方に、『この味』を提供し続けるのが私の使命。期待を裏切るわけにはいきません」
 おいしいものが作れなければ、自分の存在価値はない。中野さんは笑いながら、そう言い切った。


複雑な酸が、印象的な風味になる

「今年のジュース用は、新しい品種に変えました。そのため、よりマイルドな口当たりになっています」
 新しい苗は、これまでと同じマルトマトの系統だが、カビ病耐性のある品種だ。これは農薬を極力使わないための選択。一般的な接木苗は病気には強いが、味が落ちる。だから中野さんは、純粋なトマトの味を追求するため、接木をしない。
 また、同じ永田農法のトマトでも、栽培農家によって、味は別物になる。中野さんのトマトは、どんな品種でも深い酸味が個性的。酸味は、甘味以上に複雑で奥深い味覚だ。
 トマトの酸味はクエン酸、酒石酸、リンゴ酸など、さまざまな有機酸が融合したもので、それぞれ違う個性があって、それら酸のバランスにより酸味の質が変化する。
 中野さんは微妙な味の違いを感じ取り、どんな味にするか目標を決め栽培する。酸味の出し方も計算のうち。名人と言われるのは、繊細な味覚を持つからこそだ。
 例年、収穫初期は酸味が少し浮く感じがあったのだが、この年ははじめから味に一体感があって、文句ないおいしさだった。


30年越しの、熟畑作り

「味を作るのは、技術だけではありません。ここは熟畑ですから...」
 熟畑とは、作物に適した栄養バランスの土壌のこと。中野ファームのガラガラの赤土は、長年積み重ねた栽培により、微量栄養素が絶妙な加減で含まれている。
 この土は、中野さんの履歴そのものだ。30年に渡る試みのすべてが、この熟畑を作っている。「今年はサトウキビの搾りかすを加えて、微生物が活発な土作りをしました。おかげで細かい根がたくさん出て、天候不順を乗り越えられた」
 毎年、少しずつ改良を加え、理想の状態を探っている。今いただいている評価に溺れることなく、着実においしさを追求したい一心で、栽培に取り組むのだ。

 現在中野ファームでは、40棟のハウスのうち6棟を、息子の勝さんと賛さんにまかせている。中野さんは手を出さず、栽培方法も設備も親子別。お互い、思う通りにやっているそうだ。
 父よりおいしいものを作ろうと、息子たちも密かな競争心を燃やす。それを見る中野さんは、「何をやりだすのかとびっくりさせられる」とのことだ。
 自分も若い時は、親を心配させながら、今の道を歩んできた。だから、「親父の言いなりになるだけじゃ、おもしろくない」と、息子たちにかける期待も大きい。


深紅のトマトベリーも楽しみ

 ジュース用のトマトはほぼ収穫を終えていたが、ミニトマトの収穫はまだまだ続く。健菜でも何度か出荷した、注目の新品種・トマトベリーのハウスも鮮やかに色づいていた。
 今日はこれから収穫ですか?と尋ねると、「いえ、今日はもう終わっています。これは明日か明後日の分」との答え。「トマトベリーは収穫時期を見極めるのが一番難しいですよ」
 トマトベリーは、ファーストトマト同様、果肉を味わう品種。ゼリー分が少なく、厚みのある果肉にゆっくり味をのせていく。真っ赤を超えて深紅になるまで色づけないと、おいしくはならない。
「だから、なかなか個数がまとまりません。商品が届いたら、色の濃さを確かめてみてください」
 一般のトマトベリーと比べると、雲泥の差のおいしさ。ぎゅっと引き締まった味がするのは、中野さんが作ってこそだ。
 さて、今年のトマトの出来はどうか? 先日中野さんに電話で様子をうかがってみた。
 今のところ、順調とのこと。健菜トマトジュースの新絞りは、味のピークを待ってから、8月ごろの切り替えとなる。どうぞ、楽しみにお待ちください。


新着エントリー

  • 「にがり」が要の玉ねぎ栽培

    昨年の3月、有明海に面した干拓地に玉ねぎ生産者を訪ねた。 おいしさの秘訣は「にがり」。でも、それだけ...

    健菜通信:今月の特集 | 2024年04月
  • トマトジュース

    贅沢のお裾分け  共働きで高収入の若い夫婦を、パワーカップルというそうです。すると、姪はパワーシング...

    健菜スタイル | 2024年04月
  • 50余年、培った技を伝えつつ 父子でつくる小玉すいか

    昨年の3月下旬、熊本県植木町の片山農園を訪ねた。「ひとりじめ」の収穫開始から4日目のことだ。 1週...

    健菜通信:今月の特集 | 2024年03月
  • おいしく育てる基本は足し算

     トマトは光が強くて、そして気温が低いとおいしくなる野菜。昨秋は気温が高めだったので収穫開始が前倒し...

    土かぜ日記 | 2024年03月
ページの先頭へ