青森県の弘前から南下して、十和田湖方面へ。森を分け入るように細い山道を上っていくと、パアッと開けた明るい農園が姿を現します。広い空の下では、キャベツやレタスの淡い緑がキラキラ。なんとも美しい光景です。
ここを管理するのは11人の名人たち。小林興二郎さんを長として、志の高い生産者たちが集まり、グループで活動している農園です。健菜では、夏から秋にかけて、キャベツやレタス、にんじんを届けてもらっています。
「よくいらっしゃいましたね!」
案内してくれるのは、小林政義さん。長年、農園をもり立ててきたグループの一員です。
「いまは一番にぎやかな時期で、朝2時から夜まで働きづめです。その代わり冬は寂しいですよ。来ようと思ったら、スノーモービルで来るしかない。冬は私たちも冬眠します(笑)」
県内でもとくに雪が多いこの地域は、真冬には積雪2メートル以上にもなる厳寒地。でもその分、雪解け水には恵まれています。冷涼な気候と、冷たく澄んだ八甲田山の湧き水が、夏の野菜をゆっくり育て、内容を充実させてくれるのです。
「雪解け水は枯れることはないのですが、雨がなく畑が干上がることはありますよ。そんなときはポンプで地下水を汲み上げ、撒いて歩かなくてはなりません。そうかと思えば突然ゲリラ豪雨に見舞われることもある。温暖化のせいでしょうね...。賢く対策しておかないと」
排水が心配な畑の下には排水管を敷くなど、天候への対策は万全です。
「うちのキャベツは、春物みたいに柔らかいでしょう。サワーキャベツという自慢の品種です」
ふつう夏場に見かけるのは寒玉という日持ちのよい品種ですが、寒玉は葉がかたく、食感で味を損なってしまうのが難点です。
一方、小林さんたちのサワーキャベツは、春系の品種。葉が柔らかく食感がよいので、甘味が存分に味わえます。
しかしこのサワーキャベツ、暑さに弱く、雨にも弱くて腐りやすいので、品質を安定させるのが難しい品種。高冷地で丁寧に作るからこそ、おいしくなるのです。
定植したのはGWごろ、青森はまだ寒い時期ですから、株間をゆったりとって太陽の光をたっぷり浴びせて栽培します。ギリギリまで完熟させてから収穫した後は、すぐさま予冷庫へ入れ、鮮度を保って出荷します。
広大な園地を移動して、にんじん畑にやってきました。出荷は9月上旬の見込み。まだ小さなにんじんです。
「よく『甘いね』と言われるので糖度計で測ってみるんですが、不思議なことに一般のにんじんと数値はそんなに変わりません。数値に表れないところに、おいしさがあるのでしょう。子どもも生で食べるし、ジュースにしてみるとやっぱり違いが明らかです」
夏、ご家庭のにんじんが冷蔵庫の中で腐って溶けていたことはありませんか。でも小林さんのにんじんは、古くなっても腐らずに、ミイラ状態に枯れていきます。肥料をむだに与えず、厳しく栽培したにんじんは、細胞が強く、生き生きしています。だから腐るのでなく、枯れていく。健菜にんじんの理想的な姿です。
「11人の仲間たちは、全員この農園の看板を背負って、手を抜かずに仕事をします。いいにんじんだと言われるのを励みにがんばりますよ!」
今シーズンも、順調においしい野菜が届いています。冬の訪れまで、どうぞお楽しみください。
平川の農園から北へ車で30分、隣接する黒石市へと向かいます。次なる場所は、石黒司さんのだいこん農園。ちょうど出荷準備をしているところでした。
そのだいこんの見事なこと!
おしりまでずんぐり太った立派な姿で、冬物のような貫禄です。
「夏だいこんは病気が出やすいから早採りする人が多いけど、私は一週間長く完熟を待つ。だからずんぐりしただいこんになるんです。ふつう夏だいこんは水分が多くて、切るとシャリッていうけれど、うちのはミチミチッて音がする。身質が緻密なんです」
さあ、早速農園を案内していただきましょう。
石黒さんのだいこん畑を見てまず思うのは、「葉っぱが小さい」ということ。でも、これでもう出荷できる段階なのだそう。
「肥料をやり過ぎて葉っぱばかり育てる人がいるけど、だいこんは根を育てるものだからね」
葉の色は薄く、ところどころ黄色くなりはじめています。これはだいこんが肥料を完全燃焼した証です。
「肥料の窒素分が残留するとエグミの原因になります。だいこんはほかの食材のじゃまをせず、味が染みてこそおいしい。素直な味が一番だよ」
このだいこんは、経験に裏打ちされた、高い技術の賜物です。
「農業は1年1作しかできないから、毎年どれだけ自分の畑の土に向き合えるかが勝負。今年の作柄を見て、来年はどうしようかと常に考えています。それを10年、20年と積み重ねてようやくものになる。自然相手は、おもしろいですね」と石黒さん。
おすすめは鶏とだいこんの炊きあわせ。味がよく染みて、石黒さんのだいこんが本領を発揮します。ぜひ、お試しください。
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