紅さす完熟菊みかん

濃い色のみかんは、味も濃い! 福岡県大牟田市の名人・藤田幸義さんのみかんをご紹介します。

 柑橘の定番にして、もっとも人気の高い温州みかんが、いよいよ旬を迎えます。健菜では、福岡県大牟田市から藤田幸義さんのみかんをお届け。小粒なれど味の濃い絶品みかんとして、毎年ご好評をいただいています。
 大牟田市は、福岡県の最南端にあり、かつては三池炭鉱で知られた町。南と東を熊本県に接し、西には有明海を隔て、雄大にそびえる雲仙岳が見渡せます。
 藤田さんのみかん園は、さんさんと陽光が降り注ぐ南向きの斜面にあるのですが、その傾斜はうっかりすると転びそうなほどの急角度。赤土の土壌には大きな石がゴロゴロしています。
「ただでさえ水はけがよくて乾燥ぎみなのに、今年は雨が少なくてね。葉が縮れてかわいそうなくらいでした。サイズが伸びず、菊みかんだらけですよ」

「菊みかん」というのは、皮がボコボコして菊の紋が浮き出たようなみかんのこと。乾燥が激しい年によく出るみかんです。市場では見映えの悪さから敬遠されがちですが、中身はこれ以上ないほど充実して美味。藤田さんのみかんは、どんな年でも、菊みかんの比率が高いのです。
「見かけより味ですからね。おいしいものを作らにゃいけん」
 藤田さんは、力強くうなずきます。

味を高める枝作り

 この一帯は「上内みかん」の名で知られる名産地で、宮川早生という品種の経済栽培が行われた最初の場所。
 宮川早生は、みかんの中でももっとも味がよいと呼び声高い、早生温州の品種のひとつ。定番の品種だからこそ、育て方により味が大きく変わります。藤田さんが育てたものはとくに甘味が強く濃厚と、仲間内でも以前から評判でした。
「このあたりで宮川早生を作るようになってから、60年くらい経ったやろか。父の代で畑を開墾しましたが、うちでは初期に植えた木がまだ現役ですよ」

  みかんの木の寿命は通常40年くらいですが、藤田さんの園には60年クラスの木がたくさん残っています。 「よく手をかけていますからね。健康な状態を長く維持するには技が必要です」  そもそもみかんは、樹勢が強すぎると味がのらないということをご存知でしょうか。  木が元気すぎると、みかんの実はおしりを天に向けて枝につくため、栄養が行き渡らないのです。だから樹勢が強い若木では、思い通りの味が出ないのだとか・・・。  そこで藤田さんは、木が若いうちから選定や施肥の加減をして樹勢を抑える工夫をします。そのため、樹の寿命がほかより長いのだということです。 「ほら。樹勢を抑えるから、ヘタの軸が小さいでしょう」と藤田さん。みかんをもぎって見せてくれました。  

果実はふつう、軸の太いのがよいとされています。軸が太ければ、木から栄養をたっぷり運べるからです。しかし、みかんは逆。軸が細い分はたっぷり時間をかけ、樹上で完熟させることができるのです。
「それから、皮の表面のツブツブ(油胞)が小さくて、きめ細やかでしょう。いいみかんの証です」
 皮すら、きんかんのような風味があるみかん。肥料を完全燃焼するため、皮もエグミがありません。

毎年おいしいを目指す

「この地域は、昔からみかん栽培が盛んで、同世代の仲間がたくさんいます。だからこそ、『自分が一番おいしいものを作ってやる!』という気持ちが強かったですね」
 はじめは先代と畑を分け、競うように技を磨きました。土地の条件に恵まれていたこともあり、先代のみかんは評判でしたが、表作と裏作(実がつく年とつかない年)がはっきりして、収穫量が安定しなかったといいます。

「経験を重ねるうちに、剪定や摘蕾でそれが防げるとわかりました。私は毎年、高品質のものを安定して作りたい。さらに、おいしい実がなる枝というのがあって、それを上手に出すように剪定します。これがわかる人がなかなかいない」
 元来の負けん気の強さと、研究熱心な性格が、藤田さんのみかんの味を高め、いまでは地域で押しも押されぬ名人として、その名を轟かせるほどになりました。

完熟を待てる喜び

 藤田さんが農協を離れたのは数年前。一時、体調を崩したことがきっかけでした。
 農協時代には、一週間も先の納品量を確定しなくてはならないため、雨が降ったり、もう少し待てばおいしくなると思っても、出荷せざるをえなかったといいます。
しかも時には、早採りしてエチレンガスと温度をかけて、色をまわして出荷するというのも、藤田さんはがまんできないことでした。
「いまはみかんに紅がさすまで完熟させて、出荷できる。健菜とのおつき合いもあって、本当においしいものを作れるという満足感がありますね。味のピークは11月半ば過ぎ。楽しみにしていてください」
 急に肌寒くなる、この季節。風邪を寄せつけないためにも、 栄養の詰まったおいしいみかんを、たっぷりと召し上がってください。

■藤田さんの温州みかん

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