真っ直ぐな姿勢と革新の心 / 太田茶園のお茶づくり

健菜玉緑茶は特別なお茶だ。その栽培や製茶については、1冊の本に収まり切らないほどの逸話がある。今回は、農園レポートともに、3つの側面を紹介する。

 佐賀県嬉野市の太田重喜さんを訪ねたのは、6月初旬。1カ月間続いた一番茶の摘採と製茶が終わり、二番茶の茶摘みまで1〜2週間というタイミングだ。この日、山の茶畑は深い霧に覆われていた。

永田農法で育てる

 嬉野で茶作りが始まったのは、江戸時代初期。盆地を囲んで霧深い山が連なり、豊かな水に恵まれた地は、茶の名産地となり、美しい茶樹の列で斜面が埋め尽くされている。
 その中から、太田さんの茶畑を見分けるのは、むずかしくはない。目印はいろいろある。「あそこですね!」と草刈り跡がある段々茶畑を指さすと、ちゃんと当たる。そこで害虫を探して焼いているのは、長男の裕介さん夫婦。頼りになる茶園の後継者だ。
 太田さんは約30年前、「茶葉では絶対に不可能」といわれていた無農薬栽培を始め、さらに永田農法を取り入れた。おいしい茶葉を育てるために、できることは全て実現する。その姿勢を貫く。
 その茶畑には雑草が生え(除草剤は使わない)、茶葉に蜘蛛の巣が張って(農薬散布をしない)、害虫を捕獲してくれている。必要最小限の肥料しか与えないので、茶樹の背丈が低(節間が短)い。葉に有害な硝酸態窒素がないので、葉色は濁りのない緑色。
 この茶葉から、ふっくら甘い山吹色の銘茶が生まれる。

製茶とブレンドの職人技

 茶葉生産者の多くは、茶葉の収穫、あるいは荒茶加工までを行い、仕上げは茶商に任せる。けれど太田さんは全てを自分たちで行う。
 その製茶法は、嬉野伝統の「釜炒り法」と「ぐり茶」を取り入れたムシグリ法だ。茶葉は発酵を止めるために、摘採後、すぐに蒸気で蒸し、その後、粗揉、揉捻、中揉、精揉、乾燥といった工程を経て荒茶が作られる。その工程にさまざまな試みや技がある。
 例えば、品種によっては茶葉の発酵を進めて萎凋(いちょう)香を付ける。蒸す際の水分と温度も独特だ。茶葉の厚みによって、乾燥も変える。製茶中の茶こうばは熱気を帯び、轟音が響く。しかし、重喜さんと裕介さんの作業は、繊細な調整がものをいう。
 ただし、まだ、風味豊かな日本茶は生まれない。

 日本茶は、複数の茶葉をブレンドして作られることをご存じだろうか。異なる個性が集まって、「香甘苦渋」のバランスが生まれる。
 これに「清らかさ」が加味されるのが太田茶園のブレンドだ。
 その技でも、太田さんは日本茶通をうならせてきた。茶葉の香りを瞬時にとらえる。熱く濃い目のお茶を汲みだし、味を確認し、完成をイメージして配合を決めていく。
 そしてその年の最高傑作ブレンドが健菜玉緑茶となる。
 このため、太田さんは、自然条件が異なる14カ所に農園を分散させ、9種の品種の茶樹を植え、個性豊かな茶葉を収穫している。
 品種は、流行や高価であることにこだわらない。自分の感性に正直だ。気になる品種は取り寄せ、試験栽培した上で、ピンと来たら、4年がかりの栽培を始める。決断は早く大胆だ。
 太田さんが目下、大きな期待を寄せているのは「つゆひかり」という新品種。樹勢が強く、お茶にしたときに馥郁たる香りを放つ。まろやかで上品な味だ。その茶畑を見ながら太田さんは断言する。
 「まだ幼木ですが、2年後の健菜玉緑茶を担ってくれます」
 健菜玉緑茶の味は、変化し進歩していく。

釜炒り法の復活

  今年、太田さんは、昭和30〜40年にかけて製造され、姿を消した釜炒り機を入手し、嬉野伝統の釜炒り茶を復活させた。茶葉を蒸さずに、炒り上げていくシンプルな伝統製法の釜炒り茶は、茶葉の品質と製茶技術で、その出来映えが大きく変わる。太田さんも「香ばしく、茶葉の良さが生きる」と釜炒り茶の可能性に大きな期待をしている。


新着エントリー

ページの先頭へ