三ヶ日みかんの郷を訪ねて

爽やかで甘くて、何個でも食べられる温州みかん。
その栽培一筋50年の生産者を、浜松市に訪ねた。

 三ヶ日町はみかんの町だ。浜名湖とその枝湖である猪鼻湖を囲む山肌にみかん畑が広がり、爽やかなシトラス香が漂う。江戸時代にみかんの栽培が始まった一帯は、明治〜大正時代に栽培法が研究開発されて生産が定着。今では、三ヶ日みかんといえば、多くの人が知る果実ブランドのひとつだ。
 中でも小野茂樹さん(64歳)の温州みかんは、果汁の甘さといい、コクといい、頭ひとつ抜けている。父の代から温州みかん専業だという小野農園を訪ねたのは昨年の12月はじめ。早生みかんの収穫が一段落し、晩生みかんがその最盛期を迎えていた。

地表近くに根を張る果樹

「特別なことはないのだけれど...」と、小野さんは話し始めた。
「おいしいのは、何といってもこの土地のおかげです」
 農園は温暖な気候や日本有数の日照量、そして赤土に恵まれている。赤土は養分が少ない痩せた土だが、ミネラルが豊富。しかも、ここは礫混じりで水はけがよい。
「見て下さい。ググッと根が地表に張りだしているのが分かりますか」と小野さんは果樹の根元を指差した。
 温州みかんは直根を地中深くに伸ばそうとする性格が強いが、粘土質の赤土がそれを阻むので、土表近くに根が広がるのだという。これは、健菜の野菜生産者が「おいしい根」と呼んでいる毛細根と同じ理屈だ。樹木は、地上の樹形と地中の根の形が対称になっているそうだが、大きく枝を広げた樹形を見ると、地中の様子が想像できる。その根がおいしさの大もとだ。
 では栽培のポイントはなんだろう。
「剪定と摘果。父は剪定が全てだとよく言っていましたが、それは変わりません」
 寒さが緩む2月になると、小野さんは来る日も来る日もひとりで剪定にあけくれるという。どんな枝にどんな実をつけさせるか。その想像力が技術の基本だ。5月に花が咲き結実すると、今度は余分な果実を毎日、落としていく。どちらも、人には頼めない。
 そして、10月下旬、早生みかんの収穫を始める。
「周囲より2週間ほど遅いです。味をよくしたいので...」
 温州みかんは樹上で完熟を待つと、1週間で1度ずつ糖度が高まるが、その分、果樹に負担がかかる。長く樹上に果実をとどめたら、翌年、収穫量の大幅減は避けられない。
「じつは、隔年結果は〝起こるもの〟として覚悟を決めました。贅沢ですが」と小野さん。農園ごとに、交互に果樹を休ませるのだという。離農した人から任されることも増え、農園が広がったので可能になったやり方だ。

10年後を見据えて

 小野さんは、早生は興津早生、晩生は、貯蔵しておける青島という品種を生産してきた。三ヶ日みかんの主流は青島だが、健菜では、濃厚な果汁で薄い内袋がとろけそうな興津早生を主にお届けする予定だ。興津早生は樹が暴れやすくて果実の品質が安定しないのが欠点で、味がよいのに生産者が減少している。けれど、「うちの果樹は落ち着いています」と小野さんは涼しい顔。農園で活躍しているのは樹齢20〜30年の働き盛りの果樹たち。暴れる時期は卒業したらしい。
「この園地の200本は樹齢35年。来年は改植します」
 すでに幼木から10年間、育成してきた苗木が用意できているが、定植後の10年間は、まとまった収穫は望めないという。果樹栽培は、10年間単位の計画が必要だ。
 「ボクも六十代半ば。だから、そんな先のことまで考える必要があるのかなとも思いますが...」と笑うが、その目はちゃんと将来の果樹園の姿を思い描いているようだ。今年も、来年も、10年後の温州みかんも、その出荷を楽しみに待っていたいと思う。

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