「木守り」という言葉を知ったのは、茶道の稽古を始めてからでした。これは葉を落とした枝に、ポツンと残った柿などのこと。旅人や鳥のため、そして翌年の豊穣を祈って穫らずに残しておく風習なのだとか。茶の湯の世界では、名物茶碗や茶杓の銘になっていて、秋になると随所で出合う言葉です。
昨年、我が家のお茶室もどきの小部屋で開いたミニ茶会では、お菓子に「木守り柿」を用意しました。じつはこれ、健菜のあんぽ柿のこと。命名者は私です。お茶会にどんなお菓子を出すかを考えるのは、亭主の楽しみの一つ。凝った和菓子ではなく、素朴なあんぽ柿を選んだのは、木枯らしの中で甘く熟していく木守りの風景がイメージできて、晩秋の季節感にあふれていたからです。それに、味の繊細さは和菓子にひけを取らないのではないかしら。
そもそも千利休の頃は和菓子がなく、栗や果物などが供されたそうなので、干し柿も使われたことでしょう。
実際、お茶会の出席者の反応は上々でした。はじめてあんぽ柿を食べた人がいたり、「こんなに甘いとは!」と驚かれたりで、会話がはずみました。「命名も趣味がいい」と褒められて、亭主としては花丸をもらった気分です。
ところで、この席に「ワインにも合うのよ」という出席者がいたことも、なかなかの収穫でした。
後日、試してみたら、これがおいしいのです。フランスパンにあんぽ柿とクリームチーズの組み合わせ。フランスでも柿は「KAKI」というそうなので、名前は「canapé au kaki(柿のカナッペ)」かな。でも、もう少し風情がある名前をつけたいものです。
あんぽ柿は素朴な伝統食です。でも、こっくりと甘くて艶やかな柿色果肉の健菜あんぽ柿を味わっていると、柿の栽培や加工に色々な工夫がされているのだろうと分かります。普通の干し柿とはずいぶん違いますから、単に寒風に当てているだけではないはず。風を操る熟練の技があるにちがいありません。今年はお茶会は開けないけれど、家飲みのために忘れずに注文しなくては......。
(神尾あんず)
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