高島は長崎半島西沖合にある小島だ。幕末から採炭事業が始まり、その技術と良質な石炭供給で日本の産業を支え続けた。昭和30〜40年代は約1万8000人もの人口を擁したという。けれど、現在の住人は300人足らず。静寂に包まれ、盛時の姿を想像するのはむずかしい。
炭鉱が閉山された昭和61年、新たな産業が根付くことを願って始まったのがトマト栽培だ。その初めから、故永田照喜治氏はこの島を頻繁に訪れ、永田農法での栽培を指導していた。そして農園設立の目的と農法は、現在に引き継がれている。
農園を訪れたのは、昨年の3月。トマトは平均糖度9度、12度という極甘品も頻出する味のピークを迎えていた。
「久しぶりですね」
高速船の桟橋で、取材チームを迎えてくれたのは、農園の所長・溝江弘さんだ。その案内で、ハウスの中に足を踏み入れると、「美しい」という言葉が思わず口からこぼれた。生き生きとした木の姿、うぶ毛が金色に光っている葉や茎、形も色も整った果実の房......。見事だった。
つくっているのは「高島らしいトマト」だと溝江さんは言う。そのためには、ファーストトマトでなければならないらしい。
じつは野生種に近いファーストトマトの種は、数年前に種苗会社が生産を止め、栽培が容易な改良種のみが生産されるようになった。しかし、改良種は、ファーストトマトが本来もっている食味の力強さや野生味が乏しい。それを危惧した永田氏の子息が、生産停止前に、改良以前の種子を購入し、農園に提供。農園では、この貴重な種を絶やすことなく栽培しているという。
この日は、栽培を担当している鎌田一優さん、大町航平さんのふたりが取材に応じてくれた。どちらも20代後半、農業未経験で就農し、栽培歴5年と6年という人物だ。そして、両人ともに「トマト栽培は面白い」と語る。
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