「卵はどう料理いたしましょうか?」
若い頃、こんな風に聞いてもらえるホテルの朝食が大好きでした。背伸びして星付きホテルに泊まった時は、「ボイルド・エッグ」を注文し、次の質問を待ちます。
「何分、ゆでましょうか?」
「フォー・ミニッツ!」
5分ではなくて4分。それは十代の頃に読んだ翻訳小説の影響でした。朝食の卵に完璧を求める、頑なな老人が登場する作品で、執事が運んでくる卵のゆで時間はきっちり4分。それ以外は受け付けません。小説のタイトルすら忘れたのに、なぜか、この場面だけ強烈な印象が残り、海外のホテルでは、つい真似をしていたのです。
しかし、出てくる卵は千差万別。高価なエッグ・スタンドを使っているホテルでも、固ゆでのことが多く、どうということのない味ばかり。いつしか、私の半熟卵へのささやかな思い入れは消えてしまいました。
半熟卵への関心が復活したのは、健菜たまごの販売がきっかけでした。飼育環境をととのえて、厳選したエサを母鶏に与えるという姿勢は、当時、とても新鮮でした。考えてみたら、母鶏の健康状態は、卵の栄養や味に結びついています。「健康であれ」という養鶏は、とても好ましく思えました。
では、肝心の味はどうなのでしょう。
ほかとの違いを知りたくて、まず、作ってみたのが半熟卵でした。うっかり固ゆでになってしまいましたが、しみじみとおいしいと思えるゆで卵なんて、初めてでした。ゆで卵と侮れません。さすがです。
仕事仲間は、「健菜たまごでカステラを作ったら、全然違いました」とびっくりしているし、「うちの子は、健菜たまごの卵かけご飯しか食べない」という人もいます。
私は、あまりに健菜たまごに慣れて、スーパーで卵の補給ができず、ちょっと困っています。
健菜たまごのおかげで、わが家の朝食やお弁当には半熟卵がよく登場します。最近のルールは、スプーンで食べる朝食には、ゆで時間5分、やや固めのお弁当用は7分です。小説の執事のように、時計をにらんでいなくても、有能なコンロが「ピーピー」と教えてくれるので失敗知らず。きっと、どんなホテルよりおいしいはずです。
(神尾あんず)
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