年初に「粕漬けたくわん」を注文するのは、わが家の恒例です。それに、このたくわんをお隣にお裾分けすることと、冬の茶事に使うことも、恒例になっています。
はじめて粕漬けたくわんが届いた時に、「家人だけで食べるのはもったいない」と思った私は、お隣にお裾分けすることにしました。お隣は上品なシニア夫婦の二人暮らし。近所同士で食べ物の交換をする土地柄ではありませんが、これなら歓迎されそうな気がしたのです。
すると、たくわんが大好物だというご主人が「はじめての味だ」と大喜びされ、その後、顔を合わす度に「あれはおいしい」と褒められることに......。私の方が、粕漬けたくわんの希少性やおいしさを、さらに見直すことになりました。
同じことは、(茶道の)茶事の席でも起こりました。
私の社中は、時折、正式な懐石料理を自分たちで作り、茶事をしています。懐石は、3膳めのご飯をたくわんなどの2〜3種の漬け物とともに味わい、さらに飯椀に湯を注ぎ入れて、飯椀についた米粒をたくわんで軽くきよめながら食べるのが作法。たくわんには、懐石を締めくくる大切な役割があるのです。
その年、「おいしいですね。でも奈良漬けとは違うし、何でしょうか」と言ったのは、大切なお正客でした。褒められたご亭主(つまり私たちの先生)は、「上越の杜氏の故郷に伝わる粕漬けで......」と私がお教えした通りの説明をして、それ以来、冬に茶事を開くときは、私がたくわんを提供することになりました。
社中には料理研究家もいて、懐石料理にはかなり趣向を凝らしますが、私はたくわんを持参するだけで、社中の一員として責任を果たしているのです。
さて、お裾分けをしても、わが家の分はちゃんと確保して、熱々ご飯のお供に楽しんでいます。時間が経つと、だんだん奈良漬けに味が近づいてきて、それもまたいいものです。味の良さは、酒粕の使い方が巧みだからでしょう。杜氏文化の賜物ですね。
(神尾あんず)
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