はじまりのトマト・ これからのトマト / 愛知県田原市・小久保農園を訪ねる


健菜倶楽部発足当初から、ファーストトマトを作り続けている生産者がいます。今回は、そのはじまりのトマトを求めて、愛知県田原市の小久保敏広さんのハウスに伺いました。

 健菜倶楽部は、1個のトマトとの出会いからはじまりました。
 まさかトマトがこれほどおいしいものだとは!
 いまでこそ、たくさんの高糖度トマトが出回っていますが、20年以上も前の当時においては、そのおいしさはあまりにも衝撃的でした。
 果実のように甘酸っぱく、爽やかな香りの真っ赤なトマト。鮮烈な記憶として残ったそのトマトこそ、永田照喜治氏がすすめる、特別な農法で栽培されたものでした。
 そして、すでにその頃、永田氏は「この人こそ」と思う腕の立つ生産者を集め、全国に永田農法を広めつつありました。
その野菜はどれも、常識をうち破るおいしさの数々。その珠玉の野菜を集めて、この感動を分かち合いたい! それが20年前の健菜倶楽部発足の発端となったのです。

基本のファーストトマト

 愛知県田原市は、永田氏が最初期に選んだトマトの産地の一つ。そして、今回取材に伺った小久保敏広さんは、永田氏がファーストトマトの栽培を依頼した、最初の生産者の一人
でした。
 この地は、高級マスクメロンの栽培で知られていて、細やかな高い技術を持った生産者が集まる地域でした。
「当時は10軒くらいではじめたのですが、いま残っているのは2軒だけです。ファーストは樹が暴れ思い通りにいかないから、どうしてもやめてしまう人が多いんですね。生産者はどんどん減る一方ですよ」

 原種に近いファーストトマトは、肥料や水の管理が悪いと、野放図に成長し、大きさや味にバラつきが出やすい。さらに形がゴツゴツしているので選果機にも通せず、手選別が基本。収穫後も手間がかかります。
「でも断然旨い、と私は思います。好きだと思えば、どんな苦労も煩わしくありませんよ」
 そんな小久保さんのトマトは、見れば見るほどいい顔をしています。
 ピンと尖った立派なガクに、グッと張った肩。ゴツゴツとした無骨な形ですが、肌にはツヤがあり、金色の産毛がキラキラと光ります。そして手に持つとずしりと重く、中身もみっちり。
 これは健菜倶楽部が最初に出会った、絶品ファーストトマトそのままの姿。一番基本のトマトです。

高級メロンで養った栽培技術

「永田農法の基本は、水分や肥料などギリギリまで絞って栽培すること。基本に忠実にやっていれば、おのずと、おいしいものは作れます」
 小久保さんはその基本を、ずっと違えず、守っています。
「はじめ私は、トマトに関してはまったくの素人でした。でもそれがよかったのでしょう。かえって経験がある人のほうが、永田農法に切り替えるのは難しいかもしれません」
 小久保さんに言わせると、トマト栽培経験者は、「常識」が邪魔をしてギリギリに耐えられず、途中で水をやってしまう人が多いのだとか。自分はそれがなかったから、素直に永田農法に取り組めた、と。
 とはいえトマト栽培は、水分や肥料を絞りさえすればよい、というものでもありません。
 たとえば水を絞りすぎて空気が乾燥すると、トマトの皮は固くなり、食感を悪くしてしまいます。同じ味でも、食感一つで感じ方は大きく変わるもの。その匙加減も、生産者の技のうちです。
 小久保さんのハウスは、土はカラカラですが空気は潤っていて、トマトの表面は少し汗ばむくらい。だから皮は固くならず弾力があって、旨みがあります。
 小久保さんはその絶妙な加減を、観察と経験で判断しています。その目が養われたのは、トマト以前に取り組んでいた、高級マスクメロンの栽培においてでした。

 ほとんどが贈答品として扱われる高級メロンは、長距離輸送に耐えられるよう、細胞が緻密でしっかりとした玉作りが要求されます。そのための細やかな観察と栽培管理は、トマト作りにも生かされ、細胞一つ一つががっちりとした、実の引き締まったトマトになっています。
「最初の年、ガンガン水を絞って栽培したら、おもしろいように糖度がのってきたことをよく覚えています。あの時の驚きと楽しさは忘れられません。その時は収穫量なんてほとんどありませんでしたが、いまは安定して作る技術も習得できました。これからももっと、おいしさを高めていきたいですね」
 生産者自身にも感動があったからこそ、おいしい野菜を作り続ける原動力が生まれたのかもしれません。


はじまりのトマトを忘れずに

 健菜トマトは味を追求するため、収穫量を絞らざるをえないので、栽培を継続することはたやすくありません。でもだからこそ、本当のおいしさを守る生産者たちを支え続けることは、健菜倶楽部の使命の一つです。
 これからも、はじまりのトマトの感動を忘れず、皆様にさらにおいしいも
のをお届けできるよう努力してまいります。

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