短い北海道の夏、 風の大地で旨さが育つ。

本紙取材チームが、高橋龍男さん、秀子さん夫妻が待つ、高橋農園を訪れたのは、収穫最盛期の7月末のこと。そこでは、人も機械もあわただしく働いていた。

 北海道石狩平野の真ん中にある、高橋農園を訪ねるのは楽しい。
 その理由のひとつは、いつも高橋さん一家がおおらかに取材を歓迎してくれることにある。残念ながら、今回は長男の毅典さんが不在だったが、龍男さんと秀子さん夫妻が農園を案内してくれた。
「息子が説明したほうがいいのだけれど」と言いつつも、ふたりの話は尽きない。農業が好きなのだ。それが取材を楽しくする。
 それに、広大な農園の開放感は、北海道の健菜農園の中でも群を抜いている。ここにいるだけで心がのびやかになる。
 夏の強烈な太陽の下、からりと乾いた大地と、野菜の緑は元気があって清々しい。そこを涼しい風が吹き抜けていく。北の石狩湾と南の太平洋を結ぶ風は、黄金色の小麦をゆらしていた。美しい景色だ。

夏が旬の冬野菜

 高橋農園ではブロッコリー、カリフラワー、ブロッコリーニ、とうもろこしなどを栽培している。それがいっせいに収穫期を迎えていた。
 野菜の本などでは、ブロッコリーやカリフラワー類は「糖度が高くなる冬に旬を迎える野菜」、つまり冬野菜として扱われる。けれど高橋農園のブロッコリー類は夏が旬だ。
 例えば、そのブロッコリーは花蕾にぐんとはりがあり、茎は太くてしっかりしているのにやわらかい。その上、糖度が7度もある。冬のブロッコリーに負けない糖度だ。畑でさっくりと茎に包丁を入れると、その切り口からは雫がしたたり落ちた。何とも瑞々しい。
 この瑞々しさを守るため、一家は、毎朝4時から収穫を始めていた。
 ブロッコリー類は、収穫後、少しでも陽に当たるとシナシナになってしまう。そこで、収穫し次第、こまめに予冷庫に運び込む。その運搬のわずかな間も、収穫コンテナを葉や布で覆い、陽が当たらないようにしている。
「うちは特別なことはしていないの」と秀子さんは言うが、その栽培はていねいで、手間を惜しむことがない。

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土地の力を野菜に生かす

「安全であることがいちばん大切」と秀子さんは言う。
 だから、除草剤は使わない。畝と畝の間の幅がある通路は機械で除草するが、野菜の間は人手が頼りだ。ひと畝の長さが200メートルもある農園だけに、たったひと畝の草刈りに半日かかる。重労働だが、これを怠ると、栄養が雑草に取られるし、苗が病気になりやすい。
 すると「そうそう」と同意していた龍男さんが、言葉を続けた。
「うちの野菜がおいしいのは、土地の力によるところが大きい」
 石狩川の氾濫原に拓かれた農園の土は、上流から運ばれたミネラル分が豊富だ。だから、余分な肥料は要らない。それに下は砂地なので、水はけが非常によい上、石狩平野は雨が少ない。さらに真夏でも30度を超すことは滅多にない冷涼な気候が、永田農法の原則に沿っていて、野菜を丈夫にする。土の力と、気候、ていねいな作業から、高橋農園のおいしい野菜は生まれていた。
「それに...」と龍男さんはさらに付け加えた。
「安全でおいしい野菜は手間がかかる分、割高になってしまう。それを分かってくれる消費者がいるから頑張れるのだと思う」
 求める人がいるから、おいしい野菜が生まれる。

新顔に出会う楽しみ

 ところで、高橋農園を訪れる楽しみには、追加項目がある。それは、新顔に出会えることだ。
 この日は、カリフラワーの仲間で、幾何学模様のロマネスコが収穫されて清涼な香りを放っていた。白だけでなく、薄緑色などの三色のカリフラワーもごわごわの葉に包まれて、栽培されていた。
「味は、白も薄緑も同じだけど、色があるとなんだか楽しいでしょう」と秀子さん。農園には、実験栽培用の一角があり、寄せ植えのように少量ずつ様々な野菜が栽培されている。中には、見たことがないような巨大ピーマンもある。この一角の担当は、好奇心旺盛な秀子さん。どうやら、次にくるときも新顔に会えそうだ。

 厳寒の地にある高橋農園の農期は短い。春から初秋の短い期間に集中的に、仕事をする。今日も、一家は、未明から収穫作業を始めているに違いない。

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