健菜通信:今月の特集

自然と会話する 果樹翁の桃&ぶどう栽培

2015年08月01日

山梨県笛吹市の高橋家正さんは、果樹栽培歴60年になるベテランだ。
「おいしい果物を食べてほしい」と思いから、
自然に寄り添う農業を貫いている。

 健菜倶楽部の付き合いは二十余年前に始まった。その果実は高級果実専門店などからすでに高い評価を受けていて、高橋さんを「名人」と呼ぶ人もいた。
 じつは昔の高橋さんは少し怖かった。取材のために質問をしても、返事は素っ気ない。それに、ほんの少し怒ってもいた。高橋さんが気にしていたのは、硬く未熟な桃ばかりが流通して、おいしい桃が消費者に届いていないことだった。近隣の生産者が従っている農業指導が、収穫量を上げることばかりを目的に農薬や肥料の過剰な使用を勧めていることにも、強く反発していた。
「わたしはわたしの果実を作る」
 そんな緊張感が、高橋さんの全身をおおっていたように思う。
 しかし、毎年、果樹園に通ううちに、高橋さんの雰囲気は穏やかに変化した。その理由の一つは、「量より質」の栽培姿勢を理解し、応援している健菜倶楽部メンバーの存在かもしれない。

 今では取材チームが果樹園に到着するや否や、「これを食べてみて」「こっちもどうだ」と、試食攻めである。そして、「おお!おいしいですね」という反応を、何より喜ぶのだった。
「表面につぶつぶ模様があるでしょう。これは店頭には絶対に並ばないよ。お店の人が裏に隠しておいて、お得意さんにだけこっそりと売る桃ですよ」
 その桃を試食すると、糖度は20度もあった。驚きの甘さだ。
 ちょうどその日は、作業場では健菜の果物頒布のための箱詰めが行われていたが、その箱の中には、ぶつぶつ模様の桃がいくつも見られた。
 さて、どなたの手元に届いただろうか。

決め手は「硬い樹」

 高橋さんが栽培している白鳳、白桃、黄金桃などの桃や、ピオーネなどのぶどうは、どれも果汁が多くて香りがいい。もちろん糖度は抜群に高く、味は濃厚だ。そして、素直な味がする。清らかな味といってもよいかもしれない。
 それらの果実は、硬い樹に生る。「硬い」というのは、高橋さん独自の表現で、健康で丈夫な樹といった意味だ。肥料や水をあたえ過ぎず、痩せた土壌に根を張りゆっくりと成長させている果樹である。永田農法を知る以前から、高橋さんは自分で「これがよい」という栽培法を研究し、こうした果樹を育ててきた。
 おかげで、周囲の農園が悪天候のために落果(未熟なうちに樹から落ちる現象)に悩んでも、高橋農園は大きな影響を受けないという。
 硬い樹は寿命も長い。桃もぶどうも、周辺農家の果樹に比べて10〜20年も長く、優秀な実を生らす。
 その樹形も、周囲の農園とは違っている。

 例えば、桃の樹。基本は変則主幹形という形なのだが、大胆に剪定されているので素人の目には自由奔放に見える。同業者からは、「桃にこんな剪定をするのか」と驚かれるという。
「でもこのほうが太陽の光がたっぷり当たる。それが一番大切なこと」と高橋さんは言う。
 最近は、収穫作業をしやすくするため、果樹の背を低く、枝を横に広げて仕立てる農園が多いが、ここの桃は背が高い。脚立を上ったり降りたりしながら収穫しなければならないので、作業はたいへんだ。
「でもいいの。このほうがおいしくなるからね」

生命力に任せる摘果

 今回の取材では桃の摘果のことが話題になった。
 高級な桃を栽培している生産者の多くは摘果を徹底して行い、少ない果実に養分を集中させていく。ところが、高橋さんは開花と着果時期に摘果をするものの、ある程度のところからは果樹に任せるのだ。
「生命力がない実は、自分から落ちていく」と。
 そうやって健やかな果実だけを残していく。大らかだが、理にかなっている。桃の甘さが素直だと感じられる理由は、こんなところにあるのかもしれない。

 さらに、高橋さんを紹介する上で欠かせないのは、収穫のタイミングへのこだわりだ。そのために、毎朝、はしごをのぼり、一つずつ袋をあけて桃の熟度をチェックしていく。完熟すると桃は甘い香りを放つ。そのタイミングを逃さずに収穫し、食べ頃が消費者の手に渡るようにと気を配る。
「未熟で渋い桃なんて、食べてほしくない」
 20年前から変わらない、高橋さんのこだわりだ。

手間が高めるおいしさ

 ところで高橋農園はぶどう棚の様子も他とは違っている。まず、目につくのは葉っぱが上に向かって大きく開いていること。そうやって太陽の光を最大限に受け止めている。葉っぱの数は多くはない。だから棚の下が明るくて、園地の土にも光がたっぷりと注いでいる。
「ぶどうはお母さんが頼り」
 そう高橋さんが言う理由は、「ぶどうは人が作る」と言われるほど、こまめな手入れと技術が必要であり、それを奥さんが担ってきたからだ。毎日、農園をめぐって整粒(房ごとに粒をそろえていく作業)している。
 そのぶどうも順調に育っている。
 この高橋農園の桃とぶどうは8月と9月にお届けを予定しています。果樹翁の味をお楽しみください。

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