祖父江町は銀杏の町だ。町にはイチョウの杜が点在し、晩秋になると、黄葉に彩られた景色を楽しもうと観光客がやってくる。
それらの杜は、もともとは伊吹おろしと呼ばれる冬の季節風から、神社仏閣や屋敷を守るための屋敷林だった。それが、明治期に本格的な食用栽培が始まり、今では1万3000本ものイチョウが植えられている。その銀杏は、生産量はもちろん、品質でも日本一を誇る。
戸田光一さん(47歳)一家も、代々、銀杏を生産してきた。大粒でもっちりとした食感をもち、独特のほろ苦さと香りを放つ銀杏は、料亭向けに出荷されることが多い。
「ふつうの家庭でも、季節感をもっと楽しんでほしいのですが...」と戸田さんは話す。銀杏の実は、秋が深まると翡翠色から黄金色へと変化していく。それも、旬ならではの楽しみ。健菜倶楽部ではこの銀杏を昨年からお届けしている。
さて、銀杏とともに戸田農園の秋冬野菜の柱になっているのが、ブロッコリーだ。これは27年前、就農後、間もない戸田さんが、父を説得して始めたものだという
「父は、料亭向けの軟白うどの栽培に力を注いでいました。でも、わたしは特殊なニーズのものより、一般の人が食べる野菜を作ろう、その方が将来は明るいと、父を説得しました」
まだ、周囲にブロッコリーの生産者はいなかったが、祖父江町の環境は栽培に最適だった。木曽川がもたらした堆積土壌は、水はけがよく、また、北北西の冷風・伊吹おろしのおかげで、太平洋側の他地域と比べて寒暖差が大きいなど、野菜のおいしさを高める気候でもあった。
「自然が若い自分を後押ししてくれた」と戸田さん。
研究熱心な取り組みの甲斐あり、ブロッコリーは品質の良さが認められ、徐々に栽培面積を増やしてきた。最近は、高齢の離農者から「畑を使って」と依頼されることも多くなり、今では12カ所、250アールの畑でブロッコリーを栽培している。
「うちのブロッコリーは糖度が高く、葉っぱまで甘い。収穫していると樹液で手がベタベタしますよ」
「茎に包丁を入れただけで、出来の良し悪しが判ります」
そう言いながら、戸田さんは収穫の様子を再現した。品質が良ければ、刃はすっと茎を割く。しかし、包丁を持つ手に、微かな引っかかりを感じたら、栄養が偏っているなど、いわば健康が万全といえない状態なのだという。
取材時は、そうやって選別しつつ、収穫作業をしていた。しかし......、
「これはだめだ。出荷できません」
戸田さんの表情が曇る。
「いつもは、ほとんどが問題ないのに」
じつは昨年、「こんなことは初めて」という厳しい状況が畑に出現していた。九月に三週間続いた長雨と豪雨のおかげで、数カ所の畑が浸水。苗の定植後、生育に合わせて徐々に畝を高くしていく作業もままならず、また、日照不足も大きな痛手となっていた。
「最近の異常気象を念頭に、色々と手を打ってきたつもりですが、まだ、甘かった。もっとできることがあるはずですね」
さて、それから1年。
畑の傾斜や畝のつくり、栽培法などに改良を加えたという戸田さんから、今季のブロッコリーは順調だとの報告が届いている。今年は秋晴れの日が多く、天候にも恵まれた。収穫は10月末から始まり、伊吹おろしが猛威をふるう1月を除いて、4月まで続く。
糖度はだんだんに高まり、旨みをましていく。戸田さんのブロッコリーは冬が旬だ。
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