自然の恵みが生んだ コクあり長いも・収穫開始

解禁日を待って、収穫が始まった!
1メートル超の長いもに生産者の顔もほころぶ。

 日本アルプスサラダ街道は、飛騨山脈の東麓、松本平
を南北に走る観光道路だ。農村の風景を味わうことを主旨に作られた道路だけに、沿道にはのどかな田園風景が展開している。スイカ、りんご、レタスなど、地域ごとに特産品があり、車窓の風景も刻々と変化する。
 その中ほどにある長野県山形村の特産品は、長いもだ。
 取材に訪れたのは昨年の11月2日。長いも畑は、黄葉の盛りを過ぎようとしていた。

解禁日と自然の恵み

「3日前に解禁されたばかりです」
 そう言って迎えてくれたのは小野広志さん(60歳)。山形村と波田町にある7カ所の農園で長いもを栽培している。
 この地で「解禁」といえば、長いもの収穫解禁日のこと。毎年、10月に生産者や関係者が集まり、試し掘りで状態を見ながら解禁日を決めていく。早穫りすれば高値がつくが、アクが強くて黒ずみが出やすい。そのために、少しでも早く市場に出したいという生産者の気持ちを抑えて、特産品の品質を保つための取り決めである。

 収穫を始めたばかりの畑で、今年の作柄をたずねると、朗らかな声が返ってきた。
「良い出来ですよ。まだ、全体の判断するのは早計ですが......」
 酷暑と少雨の影響はなく、生育も品質も順調だという。
「この土地の環境のおかげです」
 一帯をおおっているのは、火山灰土壌だ。排水がよくて、耕しやすい上、長いも(肥大根)が、曲がらずに真っ直ぐ地下へと伸びていける。強い陽射しと冷涼な風、昼夜の寒暖差など、気候条件にも恵まれている。梓川を源とする地下水路が整備されており、水も豊富だ。
 小野さんの長いもは、身質がなめらか、粘りが強い上に、上品な甘みとコクがある。まさに、適地が生んだ逸品だ。

秋掘りと春掘り

 長いもの栽培を始めた父を継ぎ、小野さん自身が就農したのは35年前のことだという。今ではベテランだ。
「栽培方法は、父の頃から基本的には変わりません。変わったのは、耕耘や収穫の時に機械が使えることぐらいですね」
 小野さんは、自分の農業についてあまり多くを語らないが、その研究熱心さは、謙遜気味の短い言葉からうかがい知ることができる。例えば......。
「おいしさは、土次第」
 長いもは、トレンチャーという機械を使って、幅がわずか20センチ、そして深さが120センチもある溝を掘り、その中で栽培する。溝の中の土壌の性質が、品質の決め手だ。長いもは肥料も水も大好きな作物だけに、やり過ぎは禁物。35年間の記録と積み重ねてきた経験で、微妙な調整をしていく。

「葉は多すぎず、少なすぎずに」
 活発な光合成を促し、地下深くへと伸びていく長いもに養分を送る。その葉が緑から美しい黄金色に変化したら、収穫だ。
 収穫は、トレンチャーで土を掘削してから、1本1本ていねいに掘り出していく。この日は、掘り出す度に、小野さんの顔がほころんだ。納得のできる出来なのだろう。

 収穫作業は、12月まで続く。けれど全部は掘り出さない。残りはそのまま土の中で越冬させ、翌春に収穫する。春掘りの長いもは、コクがさらに増すという。
「秋も春もどっちもうまいですよ」と小野さん。
おすすめの食べ方は「なんと言ってもとろろ汁!」。ご飯にかけても沈まないと言われる長いもをどうぞ、ご堪能ください。


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