目指すのは 次世代に引き継げる農業

第二の人生として本格的に農業に取り組む生産者。
目指すのは、持続できる農業の仕組みをつくることだ。

 三方原台地の一角、浜名湖に近い永田次郎さん(68歳)の農園を訪ねたのは1月半ば。今にも雨が降り出しそうな空を見上げながらの取材になった。畑の小石混じりの赤土は、前日の雨のおかげで粘土状になり、長靴に容赦なくへばりつく。赤土はやっかいだ。しかし、おいしい野菜をつくる上では強い味方になり、三方原台地をじゃがいもや大根の名産地にしてきた。
 健菜俱楽部顧問だった故永田照喜治氏の子息である次郎さんは、この地を選び、冬、キャベツを栽培している。「絶好の地ですから」と。

絶品キャベツが育つ理由

 赤土の土壌、日照時間が長いこと、気温の高低差が大きいことに加えて、ここには汽水湖である浜名湖から塩分を含んだ強い西風が吹く。これが野菜をおいしくする。それに、豊橋など内陸産の冬キャベツがピークを過ぎる頃に、キャベツの収穫が始められることもこの地の魅力だという。
 「とにかく食べてみて」と言われ、二つ割りしたキャベツのまん中(芯)から葉を、口に入れてみると......。
 甘い!パリパリとした食感でジューシー。まるでフルーツのようだ。

「糖度はおそらく13度以上あるでしょう」
 農園では「甘玉」「新藍」「ハニー」という3つの品種を栽培している。いずれも甲乙付けがたい食味だが、次郎さんは特にハニーがお気に入りだ。澄んだ甘さも香りも素晴らしいのだが、栽培がむずかしくて、30年前から「幻のキャベツ」になっているからだ。「このおいしさを広めたい」と話す次郎さんは、挑戦者だ。

父から受け継いだもの

「うちのキャベツは芯が特においしい。ヒヨドリはこの畑ばかり狙うし、近所の犬が大好きで、散歩で通るたびにねだられます」
 そういえば、永田照喜治氏も同じ話をしていた。犬や鳥は、健やかな野菜を見分ける感覚があると......。
 じつは次郎さんが、本格的に就農したのは4年前のこと。もともとは永田農法を実践する農家を取りまとめて、その野菜を卸売りする会社を経営していた。父の才能を受け継いでいると聞いてはいたが、60歳を過ぎての転身は、会社経営の経験を生かして、農業の問題に生産者の立場から取り組みたいとの思いからだという。
「おいしさや安全性より、相場が優先されることが多い。これではこだわって栽培している農家が立ちゆかない」
「それに周囲を見て下さい。放棄された農地があちらこちらにある。農家は高齢化する一方だし、私はここで次世代に引き継げる農業を実現していきたい」
 安全でおいしい野菜を作ることはそのスタート。そして次郎さんがつくる野菜の評価はすこぶる上々だ。当初は「農地を貸して下さい」と頼んだが、今では「ここを使って」と託されることが増え、農地は30カ所までに広がったという。

加工も自分たちの手で

 次郎さんは「野菜の品目の選定・栽培方法・出荷時期・加工・販売の流れを、良い形で組み合わせていきたい」と話す。今はその試行錯誤の段階。だから、さまざまな野菜と品種を条件の異なる農園で栽培している。収穫後の保管管理によって品質が大きく変わる芋類やかぼちゃのためには、温度だけでなく、1%単位で湿度の管理ができる大型冷蔵庫を設置した。
「出荷するときが最高においしくなるように」と。

 野菜をドライフードにして、商品化する試みも始めている。大きく切った聖護院大根の干し大根や、ほしキラリという品種の乾燥芋など、他にはない、おいしくて、そして珍しいものが多い。
 これからの展開が何とも楽しみだ。これからの次郎さんのものづくりに期待していきたい。

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