可愛い牛と純白ミルク

高原にある牧場で生まれ育つ、牛たちに会いにいった。 その健康こそが、健菜ジャージー牛乳や乳製品のおいしさの礎だ。

 「目がクリクリとしてかわいい。仔牛なんてバンビのようですよ」
 那須牧場の牧場長である小泉忠邦さん(46歳)に、ジャージー牛の特徴を質問すると、こんな答えが返ってきた。少し意外だった。想定していたのは、搾乳量や乳質などの情報だったからだ。
 ジャージー牛は、イギリス海峡にある英国王室領・ジャージー島を原産国とする乳牛だ。日本へは明治期から畜産振興のために輸入されたが、飼育数は増えなかった。ホルスタイン種に比べると身体が小さく、搾乳量も三分の二程度だったことに加えて、乳質が濃厚で脂肪分が高いことが、敬遠された理由だった。
 

けれど、1965年に那須牧場を創設したメンバーは、あえて、ジャージー牛を飼育することを選んだ。そして「日本一の牛乳をつくろう」という取り組みを始めたという。

「革新」を守り続けて

 那須高原は、日本有数のリゾート地だ。那須連山の山麓に展開する雄大な一帯は、那須御用邸をはじめ、多くの別荘が点在。牧場も拓かれてきた。豊かな自然と水源に恵まれ、夏も冷涼な一帯は、乳牛飼育にとっても最適な環境だ。
 那須牧場は、りんどう湖ファミリー牧場(現・那須高原りんどう湖ファミリー牧場)というテーマパークの開設と同時に誕生した。生乳は、全てりんどう湖畔の加工場に運ぶ仕組み。大手メーカーのように複数の牛舎のものを混ぜるのではなく、牧場で搾られた生乳が製品に直結する。それが牧場開設時から、生乳の質にこだわる礎になっていた。

 その取り組みは、故・永田照喜治氏(健菜倶楽部顧問)が開発に加わって加速。エサは安全安心な完全植物性に切り替え、配合の研究が重ねられた。革新的だったのは、永田氏の指導で緑茶パウダーをエサに加えたこと。カテキンとビタミンCが豊富な緑茶の作用で、ミルクは劇的に変化した。ジャージー牛特有の乳臭さが消え、色も純白に変わった。脂肪球も小さく、そして、おいしくなった。
「当時、真っ白い牛乳を飲んで、『やった!』と、喜ぶ牧場の先輩たちと一緒に興奮したものです」
 とはいえ、緑茶パウダーは加えれば良いというものではない。乳牛にストレスを与えず、健康状態を保つにはどうするか、研究が続けられて今がある。それを小泉さんは守り続けている。

牛それぞれの個性に合わせて

 那須牧場の搾乳は、早朝と夕方の1日2回。生乳はすぐにりんどう湖畔の加工場に運ばれ、殺菌される。生乳の栄養とおいしさを最大限に活かす、65度30分の低温殺菌だ。
「何より大切なのは、牛の健康」
 そのために、清潔を保ち、病気を予防するのは言うまでもない。最近は夏の暑さ対策も重要だ。
「1頭1頭、食欲やエサの適量も違う。それぞれに合わせて細やかに管理するようにつとめています」
 牛舎では約110頭の乳牛が飼育されている。ジャージー牛はやや頑固で好奇心旺盛。近寄ると鼻面をすり寄せてくる。
「今朝、生まれたばかりの仔牛に会っていきますか?」
 もちろん! この仔牛が、乳牛として働き始めるのは約2年半後だ。それまで、牧場で大切に育てられていく。
「牛たちがすくすくと育ち、ストレスのない環境で天寿を全うすることが願い。それが喜びでもあります」
 牛を見る小泉さんの目はやさしかった。

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