「目がクリクリとしてかわいい。仔牛なんてバンビのようですよ」
那須牧場の牧場長である小泉忠邦さん(46歳)に、ジャージー牛の特徴を質問すると、こんな答えが返ってきた。少し意外だった。想定していたのは、搾乳量や乳質などの情報だったからだ。
ジャージー牛は、イギリス海峡にある英国王室領・ジャージー島を原産国とする乳牛だ。日本へは明治期から畜産振興のために輸入されたが、飼育数は増えなかった。ホルスタイン種に比べると身体が小さく、搾乳量も三分の二程度だったことに加えて、乳質が濃厚で脂肪分が高いことが、敬遠された理由だった。
那須高原は、日本有数のリゾート地だ。那須連山の山麓に展開する雄大な一帯は、那須御用邸をはじめ、多くの別荘が点在。牧場も拓かれてきた。豊かな自然と水源に恵まれ、夏も冷涼な一帯は、乳牛飼育にとっても最適な環境だ。
那須牧場は、りんどう湖ファミリー牧場(現・那須高原りんどう湖ファミリー牧場)というテーマパークの開設と同時に誕生した。生乳は、全てりんどう湖畔の加工場に運ぶ仕組み。大手メーカーのように複数の牛舎のものを混ぜるのではなく、牧場で搾られた生乳が製品に直結する。それが牧場開設時から、生乳の質にこだわる礎になっていた。
那須牧場の搾乳は、早朝と夕方の1日2回。生乳はすぐにりんどう湖畔の加工場に運ばれ、殺菌される。生乳の栄養とおいしさを最大限に活かす、65度30分の低温殺菌だ。
「何より大切なのは、牛の健康」
そのために、清潔を保ち、病気を予防するのは言うまでもない。最近は夏の暑さ対策も重要だ。
「1頭1頭、食欲やエサの適量も違う。それぞれに合わせて細やかに管理するようにつとめています」
牛舎では約110頭の乳牛が飼育されている。ジャージー牛はやや頑固で好奇心旺盛。近寄ると鼻面をすり寄せてくる。
「今朝、生まれたばかりの仔牛に会っていきますか?」
もちろん! この仔牛が、乳牛として働き始めるのは約2年半後だ。それまで、牧場で大切に育てられていく。
「牛たちがすくすくと育ち、ストレスのない環境で天寿を全うすることが願い。それが喜びでもあります」
牛を見る小泉さんの目はやさしかった。
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