収穫を待つ健菜米は、力強く美しい

健菜米コシヒカリは、健全にたくましく育っていた。
収穫直前の産地を訪ねた。

 健菜米コシヒカリの生産地、上越市吉川区の棚田を訪ねたのは9月11日。大型台風11号が日本海を駆け抜けた後だけに、吉川区へ向かう道中のそこかしこで稲が倒伏している田んぼを見かけた。思えば、今夏の気候はヘンだった。猛暑と連日の雨、新潟県はフェーン現象にも見舞われた。
「健菜米は大丈夫だろうか」

コンパクトな稲

「よい状態で収穫を待っています」
 永田米研究会会長・山本秀一さんの表情は明るかった。研究会では1週間前にメンバー全員の田んぼを見てまわったという。昨年は健菜米として出荷しないと決めた田んぼもあったが、今年は全生産者が合格。
「どこも小出来でした」と山本さん。
小出来とは、稲の背丈や稲穂の長さが短くコンパクトなこと。収穫量を増やそうと肥料や水を与えていると、葉が茂り、稲の背丈は伸びるが、未熟なまま倒伏しやすく、食味も上がらない。コンパクトで丈夫な稲を育てることが永田農法の基本だ。実際、山本さんの田んぼの稲はコンパクトな姿を見せていた。

植物の生理とタイミング

 次に中村高二さんの棚田を訪れた。この日、高二さんの集落ではお社に宮司さんを迎えて祝詞を上げてもらったという。実りに感謝する恒例の秋祭りだ。
「今年は、天候が味方してくれました」と高二さん。

 この言葉は意外だった。悪天候に悩まされたとばかり思っていたからだ。実際、山本さんからは、「気候が変わって、どうしてよいか分からない」と頭を抱えている慣行栽培の生産者もいると聞いていた。
「私たちは農作業のタイミングが良かった。おかげで稲が水を欲しがる時にはほどよい雨が降り、晴れて欲しい時には太陽が顔を出してくれました」
 夏は日照が少なかったが、それに負けない稲を育てることができていた。30年かけ、積み重ねてきた工夫の成果だ。
「でも、今年もお母さんとはひと揉めありましたよ」と高二さん。健菜米づくりでは、夏の初めに、田んぼの土をカラカラに乾かす中干しを行う。しかし、その後水不足になると、水の確保が難しい山の棚田は致命的な影響を被るだけに、高二さんの奥さんは、中干しに躊躇するのだという。

「中干しをすると根がぐんと広がる。欠かせません」
 その言葉が正しいことは、元気な稲が証明していた。

美しい棚田で

 中村昭一さんの棚田は、息を飲むほど美しかった。稲の葉がスクッと空に向かって立ち、葉の養分をせっせと籾の中に送り込んでいる。緑色が抜けて澄んだ黄緑色に変化しつつあった。籾の中には、ふっくらと透明な米の実が詰まっている。
 中村(昭一)さんと山本さんは、さまざまな技術の中でも、近年、特に注力している土づくりの手応えを感じるという。化学肥料ゼロで、稲が自然に必要な栄養素を吸収し、健全に成長する土台となる土、微生物が活発に活動する土だ。春、それはトロトロとしてクリーミーだった。今はどうだろう。
「土が乾いてもガチガチしない。足の裏に弾力を感じる」と山本さんは言うが、「そうかね」と昭一さんは笑う。

 翌9月12日には、生産者が昭一さんの棚田に集合した。
「うちは1週間後」「うちは、もう少し後かね」と収穫適期について話す様子には、収穫を迎える安堵や喜びがあふれていた。小紙を読んでいただく頃は、収穫が全て終わり、新米は出荷の時を迎えている。
 ぜひ、心をこめて育てた新米を味わってください。

特設ページを御覧ください。


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