中村直子さん(62歳)は、そう言ってから「な〜んてね」と朗らかに付け加えた。
豊川市の畑を訪れたのは、昨年の3月半ば。そんな言葉から、取材は楽しく始まった。例年なら収穫が始まる時期だったが、昨年は生育が遅れていた。これは1月から2月にかけて、全く雨が降らなかった上、低温が続いた影響だという。
「その代わり、糖度が上がり、おいしくなるのでは?」と勝手に解釈すると、中村さんは「そんなに都合よくいくかしらね」と笑った。そして言葉を続けた。
「もちろん、品質のよいものは出荷できる見込みですが」と。
愛知県東部に広がる東三河一帯は、温暖な気候と豊富な日照に恵まれた農業王国だ。営農農産物だけでも百種類以上あり、その生産額も日本有数だという。
中村さんの畑のある地域は、水はけの良い土壌の農地が広がり、秋冬は白菜やキャベツ、夏はとうもろこしなどの栽培が盛んに行われている。じつは、カリフラワーの生産者は少数派だ。
「でも、私はカリフラワーが好きなの」と中村さん。
その理由をたずねると、しばらく考え込んでしまった。そしてひと言。
「なぜ、好きかなんて、言葉にするのはむずかしいわ」
健菜に出荷しているカリフワーは、前年の9月に種を蒔き、ハウスで育苗してから、11月に畑に定植している。カリフラワーは、寒さに当たると茎の頂上部に花蕾を結ぶ。そして、冬、「三河の空っ風」と呼ばれる北西の季節風に吹かれながら、花蕾はぐんぐんたくましさを増していく。
この日、中村さんの畑はゴワゴワした葉に覆われていた。遠目からはキャベツ畑のようだが、近くに寄ると葉はギザギザと尖っていて、かなりいかつい。
けれど、その葉の中をのぞき込むと、白い泡をギュッと固めたような美しい塊がむっくりと盛り上がっている。純白で、なんとも美しい。
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