父譲りのこだわりで目指す、どこよりおいしい津軽野菜


岩木山の裾野の端に、キラリと光る農園がある。少量多品種栽培で、野菜のおいしさにこだわる竹浪農園だ。そこでは若い生産者が、農業に向き合っていた。

 青森県弘前市の竹浪農園は、岩木川の川岸にある。白神山地から岩木山麓を流れ下り、津軽平野を潤す清流・岩木川。その中流域は、りんご畑で埋め尽くされているかのようだ。
 もし、空から秋の竹浪農園を見たら、赤い水玉模様の緑の絨毯の間から、ハウスの屋根がポツンポツンと見えるのではないだろうか。
 

その竹浪農園も、かつてはりんごの専業農家だった。
「ところが、平成3年のりんご台風で大打撃を受けて、父が野菜を作り始めたんです」
 そう説明するのは本格的に農業を始めて5年目、26歳の竹浪雄貴さんだ。
「父は頑固だから、野菜栽培は苦労も多く、失敗することもあったようです」
 頑固とはどういうこと?
「こだわりが強い。とにかくおいしい野菜を作りたい一心。栽培は、自分が納得している"竹浪流"を貫きますね」
 では野菜はどのように栽培されているのだろう。

極限で生かす農法

 この日、健菜倶楽部に出荷してきた四川きゅうりは、収穫の終盤を迎えていた。
 さっそく1本かじってみる。触ると、刺が痛いほどだが、ポキンと折ると皮は薄く、締まった果肉から、果汁が湧き出てくる。食感はパリパリとして、みずみずしい。「青臭い」は褒め言葉ではないが、この青臭さは、爽やな香水のようだ。
 四川きゅうりは、刺があることや鮮度落ちが目立つので、一般市場では敬遠されがちの品種だが、味の良さは折り紙付きだ。
「だから、うちが作るのは、四川きゅうりと決めています」
 そして、「どこよりもおいしく」と栽培の工夫を重ねている。
 水は必要最小限しか与えないので、ハウスの空気はからりと乾き、葉はバリバリだ。
「肥料も、びっくりするぐらい少ないですよ」

 その内容も独特だ。天草やおから、こぬかなどを使い、独自に考案した肥料を使う。それが旨みを生んでいる。
「でもむずかしい。野菜にとっては極限を生きているようなものだから、わずかなミスでも大きな影響が出る。日々、緊張しています」

凍る冬野菜

 別のハウスでは、冬野菜の栽培が始まっていた。ちんげん菜、わさび菜、アスパラ菜など、寒さとともに糖度を高める野菜たちだ。
 これらの野菜は、園地に種を撒いて栽培する農家や、苗を購入する生産者が多いのだが、竹浪農園は、必ず、苗床で苗を育てて定植をする。その苗作りのときに、余分な肥料を欲しがらず、強くたくましく伸びるくせをつける。
 そして、定植後、大きな役割を果たすのが、強烈な寒さだ。

 たとえば、アスパラ菜。
 無加温のハウスだから、1月ともなれば野菜はコチコチに凍り付く。それでも、アスパラ菜は、たくましく生きている。それどころか、夜に凍り付いては昼に溶け、また凍り付くことを繰り返しながら、その身の栄養と糖度を高めていく。
 マイナス10度の日が続くと、アスパラ菜の葉は、アントシアニンを分泌して鮮やかな紫色になる。その時が収穫適期だ。
「朝、ストーブを焚いて氷を溶かしてから収穫します。それでも氷を摘むようで、手の先が麻痺してきます」と雄貴さん。
「だからおいしいんですから、泣き言は言えませんね」
 そのアスパラ菜はやわらかくて、春の香りがする。そのお届けは間もなくだ。


やがては自分らしい野菜を

 残念ながら、この日の取材では父の淳一さんには会えなかった。息子に農園の説明を任せたのは、「僕は父から全てを教わりながら、修行中の身です」と話す雄貴さんへの信頼と期待が込められてのことだろう。
 最後に雄貴さんに目標を聞いた。すると「僕らしい野菜」という答えが返ってきた。最近、他の農園を見る機会が増え、野菜には作り手の個性が出ることに気づかされたという。だから夢は、自分の個性が出ているおいしい野菜を作ることだ。

「それは、消費者が求める味でありたい」
 実現したら、その野菜は、ぜひ会員の皆様に味わっていただきたいと思っています。

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