健菜通信:今月の特集

一家で貫く 「真剣に良いものを育てる」姿勢

2019年02月05日
雲仙市南部にある渡部農園は、永田農法の手本となる農園だ。 野菜の品質も生産者の姿勢もきりりと筋が通っている。

 健菜の生産地の多くが絶景の中にある。渡部農園は、その代表だ。橘湾を望む急斜面を覆うのは、石垣の列と段々畑。江戸時代から引き継がれた石積みは、先人の知恵や努力を今に伝え、美しい曲線で見る人を引きつける。けれど、健菜倶楽部顧問だった故・永田照喜治氏を引きつけたのは、鮮やかな赤土と、それを耕す"人"だった。
 渡部敏信さんと会うと、永田氏との思い出話に花が咲く。長年、安全安心な農業に取り組んでいた渡部さんが、永田氏に出会ったのは10年余り前。

「豆をつくってみませんか。この畑は、土壌も気候も適地の条件を備えていますよ」
 そんな永田氏の提案に戸惑いながらも、スナップえんどうの栽培を始めたのは、「おいしい野菜をつくる」という目的と永田農法に心ひかれ、「これは本物だ」と直感したからだ。けれど、最初は永田氏のダメだしが続いた。
「やっと"これならあなたの名前で出荷できますよ"と言われた時は、ホッとしました」
 11月から4月まで、色鮮やかな緑色で食卓を彩ってくれる渡部さんのスナップえんどうは、今では、健菜倶楽部にとって欠かせない野菜だ。みずみずしいさやにつつまれた豆の甘いこと。苦みはまったくない。
「ええ、永田先生の遺産です」と渡部さんは言う。

冬から春が野菜の旬

 「うちの農作業は台風シーズンが終わる秋からが、いわば新年」と渡部さん。秋に野菜の播種が始まり、春の終わりまで収穫が続く。栽培しているのはスナップえんどう、レタス、じゃがいも、玉ねぎ、トウモロコシ、ロメインレタスなど。冬から春が旬だ。まばゆい太陽と冬の寒さ、ミネラルを含む海風が、野菜のおいしさを高めてくれる。
 取材に訪れた4月、スナップえんどうは、収穫終了間近だった。春の気温が上昇するとともに病害虫が出現するが、農薬で対処せず、収穫を終えるのだという。
 かわってトウモロコシが主力となる。肥料を全く与えず、水分を絞るので、実は小さいが、驚くほど甘く、みずみずしい。愛おしそうに農園を巡る敏信さんの傍らで、「僕、このサニーショコラ(トウモロコシの品種)が好きすぎるんです」と呟いたのは、長男の翔大さんだった。

農園の新星

 翔大さんは、一昨年から渡部農園で働いている。じつは、翔大さんには人命救助の仕事に就きたいという夢があり、「自由に生きろ」と両親に応援されて、福岡の学校で学んでいた。ところが......。
「都会で、雲仙で当たり前に食べていたものが、どれほどおいしいかを思い知らされました」
 その気づきから、真剣に野菜をつくる父に対する尊敬の念が深まった。さらに、敏信さんが体調を崩したことが、ターニングポイントになった。
「父と母は、自分たちの姿勢や作物の良さを認めて応援したり、楽しみにしている人たちと手を繋いでいます。その手を繋ぎ続けるのが、僕の役割だと思ったんです」
 無口な翔大さんは、就農にまつわる、こんな話を両親としたことがないらしい。
 取材の折、父は、翔大さんについて「何もかもが1年生。これからです」と言い、母は「私たちとは異なる世界を見てきた息子が、いい影響を与えてくれると期待しています」と話す。
「肥料や農薬に頼らず、一生懸命に良いものをつくるということは、きちんと引き継いでくれるはず」
 これは両親の共通の意見。渡部農園には、明るい光があふれている。


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