「収穫まであと2週間ぐらいかね」
9月8日の早朝、大賀の棚田に集合した健菜米生産者たちの表情は、とびきり明るかった。写真撮影のため、田んぼに分け入ってからも、生産者の会話は止まらない。稲を前にすると、みんなが饒舌だ。
「今年の出来は上々だ」
そんな声も聞こえてくるが、まだ、油断はできない。しかし、この日の稲は生命力にあふれていて、申し分のない米が実っていることをまるで、宣言しているようだった。間もなく始まる収穫に期待が膨らむ。
今年の米づくりについて、永田米研究会会長の山本秀一さんと、中村昭一さんに話を聞いた。研究会では、前日までに、すべての田んぼを巡り、その作柄をチェックしたという。目標の食味に達していないと判断されると、健菜米ではなく、一般米として刈り取るのが研究会の決まりだが、今年は、脱落する田んぼがないことを2人は喜んでいた。
「今年は天候に恵まれました」と中村さん。
豊かな日照、適度な雨、潤沢な水が生産者を助けた。ただし、吉川でも稲が高温障害を起こし、「異常気象に泣かされた」という農家が少なくない。天候に恵まれたと言えるのは、健菜の生産者たちが、異常が常態化している気候に、さまざまな対処をした上でのことだ。「例えば?」と聞いてみた。
「中干しを緩めにしたこと」と山本さん。
中干しとは、夏、水を抜いて田んぼの土を干し上げること。しかし、無肥料に近い、厳しい環境で栽培する健菜米にとって、酷暑のもとでの中干しは極限を超えることになりかねない。中干しには、茎数を抑えたり、土壌のガス抜きや根の活性化といった効果があるが、健菜米の生産者たちは中干しだけに頼らずに、それらを実現しているという。
「永田農法の応用編の答が、新たに一つ見つかったと、感じています」と山本さんは、今年の米づくりを振り返る。
永田農法の基本は、厳しい環境でたくましく育てた作物が健康を高め、自らおいしくなっていくということ。いわば、生命力を蘇らせる農法だが、マニュアルはなく、すべてが応用編だ。だから、30年間、生産者は、工夫を重ね、できることを発見・実践する努力を続けてきた。
今年、特に注力したのが、微生物、特に光合成細菌の活動が活発な土壌を作り、毛細根を今まで以上に繁茂させることだ。生産者が「おいしい根」と呼ぶ毛細根は、リン酸を吸収し、米の糖度を高める。このため、今春は、独自の土壌改良を全員で行った。
「田んぼに入るとプチプチと音がしました。クモの巣のように根が張っていたからです」
名人と言われる中村さんでさえ、これまでに経験したことがない根は、土壌改良の成果を感じさせたという。
この日は、2人とともに棚田を巡った。畦道を一歩進む度に、足下からバッタが飛びだし、トンボが目の前を横切る。
健菜米コシヒカリだけでなく、糯米・〆張り糯も、酒米・山田錦も、美しく色づいていた。籾がやや赤みがかっているのが〆張り、背丈がやや高いのが山田錦だと教わる。いずれも、重い穂を付けながら、ピシリと直立している。
「生命力というと曖昧ですが、永田農法の米は、その力強さを感じさせてくれますね」
そう言うと、山本さんは、稲の茎をつかんだ。すると葉がこすれて、微かな金属音がする。稲の勢いを感じさせる音だ。
「3枚の葉っぱにまだ緑色が残っています。この色がきれいに抜けて黄色になったら、完熟です」
稲はすべての養分を籾の中に送り込み、登熟を終えつつある。生産者は完熟を見極めて収穫を始める予定だ。
新米のお届けは10月から。その味には大いに期待がもてそうだ。
●健菜米コシヒカリ〈頒布会〉
令和元年度産の新米発送日は10月19日(土)です。
■価格:5キロコース/1回7,333円 2キロコース/1回3,780円(送料・税込み)
※複数口数ご注文でお届け先が同一の場合、2口目以降は、価格から送料重複分をお値引きさせていただきます。
■精米方法:精白米、無洗米、七分搗き、五分搗き、玄米の中からお選びいただけます。
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