再スタートで知った 野菜づくりの妙味と奥深さ

浜松市東部の田園地帯に訪ねたのは
ベテラン揃いの健菜農家に仲間入りした生産者だ。

 「今思えば、ずいぶん無謀でした」
 平井務さんとの会話は、そんな昔話から始まった。
 取材に訪れたのは1月末。12月から始まっていたかぶの収穫・出荷は最盛期を迎えていた。寒さの中でゆっくり実を膨らませてきたかぶの実がもっとも充実し、旨みと栄養価を高めている時期だった。

七年前の再スタート

露地栽培ものが多いかぶだが、平井さんはハウス栽培専門だ。
じつは、かぶに限らず、紅くるり大根やラディッシュなど、平井さんは全ての野菜をハウスで栽培している。取材班が驚いたのは、ハウスの立派さ。鉄を骨材にした堅牢な造りで、広さは1000坪もあるという。
「建てたのは25年前です」という説明の後に、先の「無謀でした」という言葉が続いた。その当時、平井さんは100頭もの肉牛を肥育していたのだという。その経営が順調で資金的なゆとりもあったので、茶畑を潰して大規模な施設を造り、畜産と農業の二足の草鞋を履くことを計画したのだった。「しかし、野菜栽培は軌道にのりませんでした。真剣さに欠けていた当時の私は、農家としては失格でしょう」

転機が訪れたのは7年前。価格の低迷や飼料費高騰など、肉用牛の経営環境の厳しさから畜産を断念し、専業農家として再スタートを切ることにしたのだ。ハウスがそれを可能にしたことを、「幸運だ」と畜産仲間に言われるという。

化学肥料ゼロの農園で

 平井さんの幸運はそれにとどまらない。まず、挙げるべきは自然環境だ。温暖な気候で、冬も加温する必要がなく、通年、栽培ができる。三方原台地の一角にある農園の土壌は、野菜の旨みを高める赤土だ。赤土には小石が多く混じっていて、土壌の酸素不足を防ぎ、水はけを良くしている。
 何よりの幸運は、農園にはそれまで堆肥を施していただけで、化学肥料を全く使っていなかったことだろう。それが再スタートの方向を決定づけた。健菜の生産担当者など、安心安全な野菜を求める人の目にとまり、その繋がりが野菜の品質を高める助けになった。やがて「平井農園の野菜はおいしい」と評価され、販売ルートができてきたという。

 「まだ、試行錯誤ですが」と前置きしてから、平井さんは現在の栽培法について語った。
 まず、肥料は良質な有機を微量にとどめ、化学肥料はゼロ、農薬もほぼ使わないこと。多少の病害虫は野菜自身がもつ生命力で跳ね返せると考えている。
「肥料が多いと野菜がヤワになり、農薬が必要になる。農薬を使うと、さらに野菜は弱々しくなってしまう」と。
 水にもこだわる。
 農園で使っているのは、地下103メートルもの深さから汲みあげた清潔な地下水だ。その水の粒子をさらに細かくする装置を通してから灌水している。こうすると水が活性化して、植物の吸収がよくなるという。
「少量の水で、野菜の味の濃さとみずみずしさを生むのに効果があると感じています」

「とはいえ、まだ、課題だらけ」という平井さん。
「牛の肥育は、365日神経を使います。それに比べたら専業農家は楽だと決めつけていたが、違っていました」
 野菜の健康を保つための環境を整えるには、観察し心を配る必要がある。毎日、神経を使う。
「それが、おいしさという結果に現れるのは、牛も野菜も同じ。悩みながらも、農業の奥深さを楽しんでいます」
 さて、2月には平井農園のかぶをお届けする予定だ。もっとも旨みを増している時期だけに楽しみに待ちたい。

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