養鶏家の佐々木貞壽さん(71歳)は、健菜倶楽部にとって、なくてはならない存在だ。子どもの頃から20年以上、佐々木さんが生産する健菜たまごを食べているという方も、そのたまご料理が今日の食卓に登場しているご家庭も多いことだろう。
健菜たまごはおいしい。
「でも、毎日食べていると慣れて、分からなくなってしまいませんか。私自身がそうだから」と佐々木さんは笑う。
じつは、本紙で佐々木さんの養鶏場の報告をするのは10年ぶりだ。鶏舎に行く前に四万十川にかかる沈下橋に立ち寄り、連絡をすると、佐々木さんは「近くだから」と迎えに来てくれた。「鶏に与えているのは、この川の伏流水。清潔でミネラルも豊富です」という話から、取材は始まった。
佐々木さんの鶏舎は、人里離れた山間にある。日の出から日没まで太陽光が射すのびやかな環境だ。飼育しているのはボリスブラウンという鶏種。
「もともと穏やかな性格ですが、鶏舎に人が入っても騒がないのは珍しいですよ」
その理由を、「ストレスがない環境で安心していることと、良いエサを食べているから。健康なんです」と佐々木さんは説明する。そのエサは独自に開発したものだ。
佐々木さんが「アトピーでも食べられるたまごをつくりたい」と考え始めたのは40年前のこと。アトピーに苦しむ子どもが激増し、そのアレルゲンの筆頭にたまごが挙がっていた。
「なんとかできるはずだ」
「例えば、とさかの赤が鮮やかなこと。分かりますか」
残念ながら素人には判断できないが、たまごの特長はよく分かる。殻を割ってみると、最初は白濁している白身がたちまち透明になって、ふっくらと盛り上がっている。黄味は雑味がなくて、甘くさえ感じる。生臭さは一切、ない。おいしくて健やかだとわかるたまごだ。
じつは佐々木さんには近年、大きな変化があった。一つは、息子の将司さんを中心に、洋菓子店「こっこらんど」を開いたこと。「子どもたちにもっと良いたまごを食べて欲しい」との思いがこもる店には、ロールケーキやプリンなど、佐々木さんのたまごをふんだんに使い、その良さを生かしたお菓子が並んでいる。
もう一つの変化はトマト栽培を始めたこと。しかも、先端のICT(情報通信技術)を利用した日本最大規模の農業施設で、だ。国のパイロット事業だという広大な農園を案内する佐々木さんは、エネルギッシュで若々しい。
「私とトマトを繋いだのは、やはり永田先生。先生のトマトに近づきたいと思っています」
佐々木さんの新しい挑戦を応援していきたいと思う。
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